時計の秒針の音がきらいだった。
むかしからずっと。
心臓の音も聴こえるような静けさの中で
あの音はずっと、ずっと大きすぎるから。
何かに追い込まれて
殺される前に言葉が死ぬとき
自分の鼓動の音だけが
やたらに響いて
その音だけに支配される
そこにたたみかけてくるあの音は
とても、残酷だと思う。
あの日と
あの日も
あの時も
あの音に息苦しさばかりを憶えてた。
還れない戻れない時間を
きっと教える音だ。
大したことない時間ばかりだった。
大それたことなんて、何もなかった。
少しきれいな景色を視て
少しやさしい気持ちになって
少し期待の持てる未来を見据えた
急かせど引き留めようと
駆けようとしゃがみ込もうと
この音だけは誰もに等しく数えられる
大事にしなくちゃいけないことはたくさんたくさんあるし
握りつぶしちゃいけないことだって
昔から読んできた本のページを捲るようにひとつずつ撫でて愛でるべき想いだって
これから続いていくことの片鱗にそっと在って。
この部屋に音のする時計はない。
あの残酷な音はしない。
なのにどうして
こんなに感覚がなくなるほど
冷え切ってしまっているんだろう。
そっと外した、
かつてわたしを護ってくれたもの。
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