走らなければいけない、とは思えない。
息を切らして、
胸を高鳴らせて、
前へ前へと眼を向けて、
そうして走り続けなくたっていい、と
走り抜ける人たちに一瞥をくれて
わたしは斜め上の空を見上げてみる。
びゅんびゅん通り過ぎてゆく景色は
なんでだか少し苦手だ。
急かされることも
まくしたてることも
追い立てられることもすきじゃない。
目の前にあるものを
胸の中にまで落とし込めるくらい
それくらいゆるやかなスピードでいい。
通り過ぎていったものを
立ち止まって振り返り見る時間に
何の無意味さも感じられはしないから。
蹴飛ばしてしまったものに
気付いたときには
引き返して戻れる処にいたい。
やさしいことに、
やさしかったことに、
縋り付いていたいのは弱さだなあ。
だから駆けてゆけないことくらい
わかっているんだよ、ちゃんと。
左目はちょっとおかしくなっているんだろうけども、
そう簡単にはもう雨は降らないし
朧気に飛ばしてしまう意識は
そのうち此処に戻ってくるしかない。
千切れたものを
繋いで、繋いで、
手繰り寄せている途中だけど
多分この先にはもう
前ミタイなわたしは居てくれないだろうことも
何処かできっと、解っているんだろうなあ。
雨を呼んでいた重たい雲の向こうで
今日の終わりを告げる陽が落ちる。
たった今生まれたような、
でも
最期の煌めきにも視えるような
そんな、強くて儚い光の灯火だ。
今日もちゃんと、終えられそうだ。
呼応する響きはなくても、
言い聞かせるための呪文が。
必要な今はこれから、
どれだけ数えれば薄れてくれるのかは解らないけれど。
