七年ほど前に伯父の戦争の概要を追いながら書いていたころは、ほとんど歩兵部隊(しかも師団、連隊)の名しか挙げていないと思う。伯父が歩兵だったこともあるが、何せ人数が多いので資料も多いし、陸軍の戦史で目立つ。

 

だが、それだけでは雑であり、今回は挽回の好機につき逃すべからず。今回も参照するのは陸軍の戦史叢書(6)。本日は三つの部隊の正式名称やここに至った経緯などを調べる。ますはそのうちの二つ。

 

 

昭和十九年(1944年)6月13日、敵艦砲射撃の鉄の雨が降り、伯父の第四十三師団の司令部は南興神社の戦闘司令所に移り、また、現地サイパンで新編成された独立混成第四十七旅団も、戦闘指揮所をヒナシス山近くに推進して第一線の指揮にあたった。以下は齋藤第四十三師団長の指揮の一部。

 

師団長は、水際逆襲のため、チャチャに集結中の河村部隊と有馬部隊(第九派遣隊と独立歩兵第三百十八大隊と推定)をオレアイ、チャランカノアに増強した。両部隊は、ともに他の島に転進するため待機していたものである。

 

 

手元の本に「借りもの部隊が酷使されるのは軍隊の常であった」という一文がある。私の経験からして、現代の会社組織でも似たようなものだ。米軍は翌朝、上陸予定地に標識を立て始めたので、さっそく目の前で危険地帯であることが判明したといったほうがよいかもしれない。

 

いずれも「他の島に転進するため待機中」だったと補記されている。まずは「河村部隊」であるが、この大隊付だった田中徳祐元陸軍中尉の手記は過去に読んでいる。齋藤師団長にたてついて、ハリセンで頭をひっぱたかれたお方であった。無理もない。上陸日の夜襲で「河村部隊も全滅に近い損害だった」と記されている。

 

 

河村部隊は、前出の第一派遣隊の一員で、それまでの所属は歩兵第四十連隊(鳥取)の第三大隊だった。大隊長は河村勇二郎大尉。もっとも後に、第一派遣隊が独立混成歩兵第四十七旅団に編成替えになったときも、河村部隊は独立(師団直轄)のままだったらしい。パガンに進出予定だったからだろう。

 

その代わり、岡旅団長の隷下に、河村部隊の副官だった宮下亀次大尉が、新設の独立歩兵第三百十八大隊長になっている。上記青字引用に戦史叢書が「推定」と書いているのは、しっかりした資料が残っていなかったのだろうか。

 

ややこしいことに、「丸」別冊にある田中中尉の著者紹介には「当時独立混成第四十九旅団河村部隊」に所属とある一方で、手記本文には「ほまれ(第四十三師団)」の部隊とあり、実際、師団長に直接報告をしている。戦時の指揮下にあったということか。敵上陸直後に乱戦、壊滅。河村隊長は行方不明になった。

 

 

クサガメ4枚

 

 

もう一つの「有馬部隊」は、かつての第九派遣隊のこと(戦史叢書の推定どおり)。派遣先ヤップに向かうべくサイパンに寄り、5月16日に出航したがグアムの近くで、乗船が敵潜の攻撃を受け、ヤップ行きが取りやめになるほどの損害を出した。

 

第九派遣隊は、「のちにサイパン島で独立歩兵第三百十八大隊を編成し、独立歩兵第四十七旅団に編入された」と、こちらは明確に記録されている。有馬の名は第九派遣隊の有馬純彦隊長のことだろう。

 

 

そして「河村部隊」は名称はともかく、構成員は鳥取の連隊時代のままだ。中隊もそのままの番号(第三大隊のもの)で残っている。この鳥取連隊は、水木しげるが入隊した郷土部隊で、彼は後に岐阜連隊の補充兵になってラバウルに向かった。

 

今回冒頭で、三つの部隊を取り上げると書いたうち最後の一つは、戦史叢書の敵上陸日の戦闘経過の中に、「黒木少佐の十五榴大隊」と出てくる。この戦闘の話は次回の記事にするので、今回は黒木部隊の素性だけ確かめる。写真は同戦史叢書より。

 

 

 

 

これも河村部隊と同じく、第一派遣隊の組織図にある。上位部隊は、独立山砲兵第三連隊(長、中島傭中佐)であり、その隷下のニコ大隊のうち、「第二大隊(ニコ中隊)四年式十五榴各四門 黒木弘景少佐」とある。カッコ書きで同部隊の別名も付記してあり、「野戦重砲兵第九連隊第二大隊」とある。いかにも大地の砲兵隊。

 

最後に一言。後にサイパン守備隊は、たとえ僅かであろうと全力を尽くしての決戦を挑み、7月6日から7日にかけての夜、最終突撃を行った。合言葉はいかにもこの夜らしく「星」、「七夕」だった。

 

 

(つづく)

 

 

 

カルガモ一家  (2024年5月22日撮影)

 

 

 

 

 

おまけの一枚。ニイニイゼミが鳴き始めれば夏。7月4日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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