再び淵田美津雄・奥宮正武共著「機動部隊」を読む。本書における奥宮参謀は、このところ主に二つの点で悩みが尽きない。一つは内地での航空隊の訓練がなかなか進まないこと。もう一つは「油」。石油燃料の不足がいよいよ切羽詰まってきている。

 

シンガポール出張から戻り、このあとタウイタウイに進出するまで三週間しかない。本土で訓練ができるのもこれが最後であり、まだ見たこともないタウイタウイ泊地において、どこまで訓練不足を補えるだろうか。こういうふうに移動中も心配する。

 

 

戦さの主導権が敵にあり、しかも行動の秘匿を絶対に要請される前線拠点の泊地で、一体飛行機隊の訓練をどのようにして行えばいいのか? 開戦以来、内地を離れることこれで十回、しかし私は、今日のように重苦しい気持ちで首途したことは嘗てなかった。

 

戦争の主導権が敵側にあり、絶対に秘匿せねばならないというのは彼の主観ばかりではなく、小沢司令部から受けた命令書に、「敵の主反攻正面に備え」という一節もそう読んだ。「これによって明らかなように、今度は完全な受け身の戦さ」。

 

 

甲乙の両部隊は、豊後水道を出た。戦闘配置に就く。23ノットに増速し、甲板上では敵潜に備えて対潜水艦用の爆弾を搭載した艦上爆撃機が、試運転を終えて待機した。上空の航空隊と海上の防備隊は、佐伯基地から来た援護部隊。

 

奥宮参謀の乗艦「隼鷹」が先頭を切り、航空母艦六隻、駆逐艦七隻、そしてその後ろに山のような巨大戦艦「武蔵」が続く。「武蔵」はパラオで受けた雷撃による損傷の修理が終わり、共に比国を目指していた。

 

 

城島部隊がタウイタウイに到着したのは、昭和十九年(1944年)5月16日の夕暮れどきだった。すでにリンガ泊地から、小沢艦隊が入泊している。夜も更け、疲れが出て眠り込んだ。「連合艦隊の威容」を眺めたのは翌17日の朝、快晴だった。

 

その威容は次回の題材にするとして、今回はその前に記載があるタウイタウイというところの地理、地質などについのの本書の描写を要約する。タウイタウイの本島は、遠くから見ると形状も山の高さも「ちょうど瀬戸内海の淡路島そっくりである」。

 

 

本島は細長い島で標高550メートルの山がある。一方で、この島の東、西、南の三方を囲む小さな島々が、日本海軍の泊地を形成している。この小さな島々は本当と異なり平坦な珊瑚礁の島で、例えばマリアナのテニアンや、沖縄の宮古島のごとし。

 

高さが30メートルにも及ぶ日本の軍艦のマストは、これらの島を超えて空に立っており、外海から島々を越えて望遠できる。敵潜水艦も浮上すれば、ここに大艦隊があると知るだろう。

 

 

泊地の広さも大艦隊を収容するのが精いっぱいで、余積がない。空母は「航空中の諸訓練を行うためには、どうしても湾外に出なければならない」。機密保持および対敵警戒上、不安があった。

 

まだ、豪北を進攻中の大型の敵偵察機は、やがてこの地にも来るだろうし、そもそも比国そのものに「敵性」住民が少なくないのは、吉村昭「海軍乙事件」でもその一例を見たとおり。

 

 

さらに大艦隊が泊地から出入りできるのは、西側だけだった。実に監視しやすい泊地にみえた。実際、いざ出陣のとき、さっそく敵潜に発見されている。さはさりながら小沢艦隊の勢ぞろいを実見すると、やはり海軍軍人、目を見張って元気も出た。

 

それにタウイタウイの軍人名簿(主要指揮官や幕僚)をもらったところ、「いささか得意」になった。「いつの間にか、この部隊の最古参になっているのである」。昭和十七年の夏、南太平洋海戦のころ以来、機動部隊に居続けたのは彼一人だった。

 

 

シメ

 

 

今回最後の話題は、一般向けの書籍とあって、連合艦隊の大将旗が「長門」「大和」「武蔵」と集まっているのに、この泊地にないことを説明している。旗艦「大淀」は広島湾の柱島錨地にある。著者はこれが、現状ではあるべき姿だと説く。

 

連合艦隊も今や陸上基地航空部隊(テニアンの角田部隊)、潜水艦部隊(高木部隊)、陸上防衛・海上交通保護を任ずる中部太平洋艦隊(南雲部隊)が太平洋に散在しており、「地球の半球に及んでいる」。

 

 

このため全般統制の必要上、司令部は内地にあるというのが「必然的な要請」であったと説く。要請通りに事が運んだかそうかは、これから見て行こう。

 

タウイタウイを発見し調査した経緯や関係者は不明のままだが、奥宮元参謀によればリンガ泊地で訓練中だった小沢艦隊に、タウイタウイへ移動するよう命令を出したのは豊田大将であるとのことなので、最終決定者は連合艦隊か、その上の軍令部だ。

 

 

(つづく)

 

 

 

  

 

ヤマガラ(左)とベンケイヤマガラ(右)  (2024年2月16日撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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