ここしばらく、今月後半の渡航の準備も兼ねて、ニューブリテン島の戦史について復習してきたが今回で最後。参考書は本日も前掲二木書。ビスマルク諸島はニューブリテンとニューアイルランドという二つの島が、際立って大きい。

 

本書によると、両島をこのように命名したのは、英国人の航海者、ウィリアム・ダンピアなる者で、母国のブリテンと、隣国のアイルランドの両島が長くて並んでいるのに似ていることが、その名の由来である由。

 

 

ダンピアは英語で、「Dampier」と書き、その名がダンピール海峡(Dampier Strait)に残る。既述のことなので簡略にいうと、この海峡は正確にはダンピール(東側)とビチアス(西側)の二海峡を、日本軍が総称してダンピール海峡と呼んだ。

 

二つの海峡の間に、ウンボイという島がある。この小島をはさんで、日本陸軍はラバウルにある第八方面軍と、ニューギニアに展開する第十八軍の兵站線としていた。他方、ブリスベンに根拠を持つ米豪の連合軍は、この海峡を東西(南東方面からフィリピンに向けて)の交通路にせんとして、海峡の奪い合いが起きた。

 

 

著者がココポで飛行場建設作業にいそしんでいたころ、所属の第五十一師団は、第十八軍の司令部とともに、危険を冒してラバウルからニューギニアのラエに向かう輸送計画を立てた。捜索連隊司令部の通信班も、一部、師団司令部の通信部隊に同行することになった。昭和十八年(1943年)3月上旬のこと。題して第八十一号作戦。

 

著者が所属する第二分隊がココポに残り、第一分隊がダンピール行きになった。輸送船団は米軍の航空部隊に叩かれ、五十一師の中野師団長はラエに渡り切ったが、多くは戦死または瀕死の状態で救出され、安達軍司令官ほかはラバウルに戻った。通信班の第一分隊が乗っていた駆逐艦「朝潮」は敵襲で沈没した。

 

 

第一分隊の消息はなかなか掴めず、二か月ほど経ってから全員、行方知れずという報告が来た。太平洋の日本兵は、これからこういう死に方をしてゆくことになる。さらにその後、捜索第五十一連隊は、ダンピール海峡に浮かぶウンボイ島の守備につけと下命された。

 

結果的には徒労で(軍事に付き物なのだろうが)、ウンボイ島まで行きて返りての往復行軍となる。著者はこの往路において、敵航空隊の激しい銃砲撃を受け、戦傷し後送される。場所は島西岸のロロバウ島。東岸にあるズンゲンとほぼ同じ緯度にある。

 

 

 

 

ラバウルからロロバウ島には、大発で海路、移動した。これが連合軍に発見された。すでに制空権、制海権はなく、輸送担当の船舶工兵暁部隊は、大発艇の停泊時の隠蔽作業や、炊飯の煙を出さないよう幕舎の中で食事、と工夫を重ねたが、だめだった。

 

第十七師団が司令部を置くことになるガブブの地が次の目的地だが、途上のロロバウ島で上陸し露営した際、空爆を受けた。分隊の岩崎兵長が即死、著者も右下肢に直撃弾と跳弾をそれぞれ一発くらって倒れた。大発も破壊された。

 

 

二時間ほど続いたらしい空襲が終わり、著者は通信隊の戦友に背負われて救出されたが、「滅茶苦茶に骨折した右脚がぶらぶら動揺する。その痛さは今でも忘れられない」という重傷で、マニラで入院。生涯、義足の暮らしとなる。

 

本書はそれ以降、著者の日記や回想から離れ、戦友からの聞き取りや、資料を入手して編集したものだ。その中でここでは最後に、上官の佐藤支隊長と、マーカス岬の小森支隊長の行軍の終わりについて触れる。

 

 

捜索第五十一連隊主幹の佐藤支隊が、第十七軍ほかの撤退行軍(カ号作戦)の殿(しんがり)を命ぜられたのは、おそらくラバウルから一番遠いウンボイ島に、連隊長以下が到着済みだったからだろう。魔の海ダンピールを大発で往復したのだ。

 

撤退命令が出なかったマーカス峠の小森支隊も、輸送がないでは座して死を待つのみであり、島の反対側に出て、佐藤支隊のすぐ前を進んだ。しかし佐藤隊長を担送しているためか、両部隊の間隔が開くばかりだったと本書にある。要図をお借り申す。

 

 

 

 

左のツルブから右のラバウルまで、海岸沿いに向かう途中に、タラセア半島がある。佐藤大佐は、おそらく3月下旬ごろに、半島の手前で戦死した。小森少佐は先を進み、クル川をかなり内陸で渡河したあと、4月9日に戦死した。

 

図の右端にマイという名の地がある。このすぐ先(東側)に、このたび私が慰霊および遺骨鑑定補佐で伺う予定のホスキンスがある。現地ではすでに依頼した地元住民の皆さんによる収骨の活動が進んでいると聞いている。

 

 

(おわり)

 

 

 

 

茅の輪 目が回るので拝むだけ  (2022年12月26日撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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