そして私はいつも夜咲くアザミ

 

 

前回の続きです。ガダルカナルの戦いが始まったばかりのころ(ただし、一木支隊敗退のあと)、海軍は陸軍に対し、航空部隊の南東方面派遣を要求し始めたと、陸軍の戦史叢書(97)の第三章にあります。主な理由を三つ挙げています。

 

(1)同方面の作戦は日米決戦の前哨戦であり、その勝敗は戦争全局に重大な影響があること。(2)ソロモン・ニューギニア両方面の作戦を海軍で担当するのは無理なこと。(3)海軍には優秀偵察機がなく、また地上作戦協力は不得意なこと。

 

 

上記は出典が定かでないが、戦史叢書の独自の解釈ではなさそうで、「陸軍中央部が受けた直観は、激増しつつある航空消耗の陸軍分担という印象であり、その後長く反対した」と続きます(のちに陸軍は態度を軟化させ、第六飛行師団を進出させる)。

 

この時点での陸海の意見の食い違いについて、背景事情として挙げているのは、先ずおなじみ「大陸方面は陸軍、太平洋方面は海軍」という「伝統的概念」がある。この国では、自分にとって都合のよい過去の一部分を、伝統と呼びます。

 

 

もう一つは、初めから分かっていただろうとも言いたくなりますが、当事者にとっては切実な、人員、物資、飛行場建設用地の奪い合い。陸海は、相手が潰れたら戦争に負けると知っているだろうに、このいがみ合いを差配する経営者がいません。

 

ただし、この時点では「微妙な対立感情が生じていた」と表現しています。間もなく輸送船の分捕り合戦が始まりますが。また、「陸軍航空本部等は、名も知れぬガ島の戦略価値に疑問を抱き、ドブに金を捨てるようなものであると、極限する者もあった」。当時の陸軍航空本部長は土肥原賢二大将。戦史叢書より引用します。

 

 

大本営陸軍部は、十七年九月九日、独立飛行第七十六中隊(司偵)を、十月十五日、第十野戦飛行場設定隊をそれぞれ第十七軍の隷下に入れたが、その他の航空部隊の派遣には応じなかった。

 

ネギ坊主

 

 

一つ疑問を抱えたままです。上記(3)の「海軍には優秀偵察機がなく、また地上作戦協力は不得意なこと」について、文の後半は地上作戦についての知識の不足や、実戦の経験不足あたりかと見当もつきますが、海軍に優秀偵察機がないとはいかに。

 

この文章表現を真に受けて考えると、これは現場に機数が足りないというような数量の問題ではなくて、機体の性能(または偵察員の腕前)といった技術論を語っています。航空機にせよ船艇にせよ足が速く、偵察の情報が死活問題になるはずの海軍において、これはどうした。

 

 

今の私には答えが出せないので保留します。事情をご存じの方、良い資料を知ってみえる方におかれては、どうかお知らせください。急ぎません。さて、実際に配備された独立飛行第七十六中隊(司偵)については、既に話題にしています(第377回)。

 

百式司偵六機が、ラバウルに送られています。宮崎第十七軍参謀長が、ガダルカナルに進出する直前のころ。上記文中に引用した回想録によれば、活躍もしたが、苦労も多く(そもそも現地に陸軍航空部隊の拠点がない)、「悲惨な消耗戦」になった。

 

 

後に第六飛行師団が進出し、ようやくその隷下となって組織的には安定したものの、やがて著者の植草義四郎陸軍中尉を始め十一名は、中央から「航空通信の根本改革」のため、現地の大反対にもかかわらず、本土への異動を命じられた。ラバウルからの帰りの輸送船は、ガダルカナルから後送される傷病兵たちと相乗りになった。

 

撤退後、三か月以上経っているにもかかわらず、それらの将兵は依然として体力が回復しているようには見えなかった。船内では、朝に夕に極度の衰弱から斃れるガ島撤退将兵があいつぎ、その水葬礼に涙したものである。

 

 

最後に、海軍の偵察機と言えば、私にはソロモンの海で活躍した「下駄ばき」(零式水偵)になじみがありますが、このとき陸軍が派遣したのは、「キ四六」こと「百式司偵」(司偵は司令部偵察機の略)です。なぜか、イギリスの空軍博物館に本物が残っています。

 

 

 

 

コード・ネームは、”Dinah”。ダイナは英語で鳥のアジサシのこと。カモメの仲間で、ツバメのごとくエレガントに鋭く飛ぶ。こちらは、公益財団法人東京都公園協会さんのウェブ・サイトにあるコアジサシの写真。たしかに似てるっちゃ似ております。

 

 

 

さて、陸軍航空隊の戦史叢書に長居しました。前回今回以降の航空部隊の進出および昭和十八年(1943年)8月16日から始まる敵急襲については既に触れましたので、次回はこのような事態を招いた陸軍の過誤、現地態勢の不備について読み、そのあと再びニューギアの陸戦に戻ります。

 

 

(おわり)

 

 

 

ツバメの巣  (2022年6月16日撮影)

 

 

 

コアジサシの飛翔 水元公園にて

 

急降下

 

着水  (2022年7月7日撮影)

 

 

 

 

 

 

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