ソロモンの海の日本軍に戻ります。11月13日の朝、第十一戦隊の阿部弘毅司令官が、駆逐艦「雪風」に移乗し、その日の午後には、戦艦「比叡」の西田艦長も、阿部司令官の説得に応じて、旗艦の現状報告のため、「比叡」から「雪風」に移ってきた。

 

その場に居合わせた「雪風」航海長の斉藤一好氏は、自著「一海軍士官の太平洋戦争」において、西田艦長は負傷で片脚を引いて歩き、阿部司令官とは手を取り合って落涙したのを見たと書いている。トラックのGF司令部から、「比叡」を曳航せよとの命令が届いており、各艦の現状報告も求められている。

 

 

激しいスコールが来たが、敵襲も止まない。ようやく夜が更けて「比叡」の探索に出かけたが、とうとう見つからなかった。司令官はしきりに「弱ったな」と語っていたそうだが、「雪風」も空爆でボイラーが故障しており、やむなく戦線を離脱して、修理のためトラックに戻った。

 

このあと、阿部司令官と西田艦長は、予備役に更迭される。しかも、西田艦長は即日の人事で召集され、輸送船の船長に降格となった。「むごいことをするものだ」と斉藤航海長は思った。元御召艦の象徴的戦艦を失ったが故のことかと解釈した。トラックから東京に出張した黒島参謀が、この人事措置に関し海軍省に猛抗議したという逸話には既に触れました。

 

 

この「比叡」などの技術的な解説が載っている本があって、こういう事柄に疎い私には有難い存在です。遠藤昭・原進共著「ソロモン海戦 ガダルカナル海域の死闘」(サンケイ出版)。副題が長いので以下、「ソロモン海戦」と略称しますが、この本はサンケイ出版の「第二次世界大戦ブックス」のシリーズの第95回配本。昭和58年というから、私は新入社員だった。

 

このシリーズの標語が後ろのほうに印刷されており、いわく「平和を欲するなら戦争を理解せよ!!」というものだ。異論はないが、サンケイ出版とは今の扶桑社で、その名のとおりフジサンケイグループの一員です。その後、社是に変更はありやなしや。

 

 ハスのつぼみ

 

 

共著者のうち、遠藤氏は海軍の陸上勤務が中心だったようで、戦後は海軍研究者となった。原氏は1942年の当時、駆逐艦「春雨」の乗組として、ガダルカナル撤退戦にも参加した。そちらの話題は、ここでは、もう少し先の話柄になる。

 

技術的な事柄が載っているという件について、実例を挙げると、著者は戦艦「榛名」と「比叡」の設計図を入手しており、その一部が掲載されている。例の操舵装置の話だが、本来これには人力操舵と電動操舵があった。

 

 

設計図によると「榛名」には、この両方が備えつけてあり、しかも位置が離れているから、一撃で両方壊れることもないし、片方だけになっても操舵できる。ただし、人力操舵は水兵48名の動員を要した。以前ここで、「比叡」の舵を数名の人力で元に戻した話をしたが、あれは流れて傾いた舵を、真っすぐの位置に腕力で戻すだけの話であり、自在に操舵できる訳ではない。

 

他方、「比叡」の設計図をみると、電動の操舵室はあるが、別途あったはずの人力操舵の設備がなくなっている。おそらく、御召艦から高速戦艦へと近代化の改装をした際、速度を上げるため、人力操舵の諸設備を撤廃したらしい。石炭の機関もこのとき外している。まさかこれが致命傷になってしまうとは、誰も考えもしなかっただろう。

 

 

続いて、11月13日夜の艦隊行動です。連合艦隊司令部は、早々に13日予定だった輸送船団の突入を14日に延期しており、それに替えて13日夜は、当初より艦砲射撃の二番手として準備されていたそうなのだが、重巡洋艦の「鈴谷」と「摩耶」が、飛行場砲撃を行うことになった。

 

両重巡は、すでに対艦攻撃用の徹甲弾を外し、零式弾を各艦五百発づつ登載していた。ただし、この先が私にはまたも苦手であるが、前回10月の「金剛」と「榛名」のときは、最も効果のある「対空弾」100発を撃ち込んだが、今回の装備では加害範囲の狭い「通常弾」を使う。

 

 

さらに、護衛は駆逐艦がどんどん減ってきているため、「鈴谷」と「摩耶」には、軽巡「天竜」と駆逐艦三隻が付くだけ。なお、亀井宏「ガダルカナル戦記」によれば、護衛駆逐艦は四隻で、「夕雲」、「巻雲」、「風雲」、「朝潮」となっている。

 

これらの軍艦は、三川軍一司令官が率いる「支援隊」に所属している。この支援隊の主力である巡洋艦「鳥海」、「衣笠」、「五十鈴」は、ガダルカナルの西隣にあるラッセル島付近で、警戒任務にあたることになった。当日は視界良好。敵船団は後退したまま。条件は良かった。共著者は、この夜に船団輸送がなされなかったことについて、残念そうに触れている。

 

 

(つづく)

 

 

 

最近、都内でもハヤブサを見かける。拙宅の窓より。

グラマンやトンビと異なり、翼の先が尖っている、

(2019年8月9日撮影)

 

 

 

 

 

 

スズメと目が合ったところ  (翌日撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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