場面を昭和十七年(1942年)9月14日のガダルカナル島に戻します。この日の午前11時ごろに、川口支隊長が作戦失敗を認めたと各戦史にあるのは、具体的にいうと支隊長が各部隊に、同日午前十一時五分に発信した命令の内容に拠る。以下、戦史叢書より、現代かなづかいに改めつつ青字で引用します。間が空いたので、若干、第306回と重複する。

 

まず、同命令の第一条は現状把握の概要であり、例えば第一大隊と第三大隊は司令部のある二〇高地に集結中。場所は戦史叢書も確定できていないが、「ムカデ高地南側の台端と推測」している。左翼隊(岡聯隊司令部や第二大隊)は、「西南方密林内にあり」。熊大隊と青葉大隊は、「全く消息不明なり」。

 

 

第二条がこれからの方針で、「支隊は一時敵と離脱し大川西南地区に集結し後図を策せんとす」。撤退命令です。場所は司令部の「現在地」である大川(ルンガ川)の右岸(東側)を去り、左岸(西側)に移動する。敵方から離れる。

 

第三条には、「護衛中隊は大川左岸地区に沿い密林内に進路を啓開すべし」。私の読み方が間違っていなければ、「護衛中隊」とは中山中尉が先導役となって、「進路」(逃げ道)を啓開した第二大隊第八中隊のことだろう。翌15日に、この「舞鶴道」は開通した。早い。ルンガ川を駐留で渡河し、マタニカウ川やクルツ岬あたりで海岸に出て、西に向かう。細い歩道であったと思う。

 

 

撤退の手順は、長く細かくなるので概略のみ記すと、支隊全体の最初の集結地は、アウステン山の東北山麓とする。ただし、第三大隊はムカデ高地あたりの「現在地」に、また、左翼隊(岡部隊)は一部を飛行場西南方に置くべし。彼らが殿軍だ。一方、左翼隊の主力には、マタニカウ川河口の右岸に集結を命じた。

 

ただし、この時点で川口支隊長は左翼隊の現状を把握していない。左翼の岡連隊長は、敵の砲撃が激烈であることから、支隊長命令が指定したマタニカウ川右岸ではなく、左岸への前進を麾下に命じている。これが14日の午後7時。この右岸か左岸かの問題は、川口支隊が出発する前から、ラバウルで議論があった。右岸は飛行場に近いから、攻撃には適しているが、それはアメリカ側にとっても同じなのだ。

 

 

川口支隊長の手記も含め、陸軍の戦記には、ときどき「借りもの」というような表現が出てくる。主力とは別の組織(現場の指揮官が臨時の上司)である少人数の部隊のことで、激戦地を担当させられるのが通常であると書いているものもある。のちに、川口支隊そのものが借りものになったと、支隊長本人が手記に書いている。

 

上記の川口支隊長の撤退命令が、青葉大隊の第六中隊に到達したのは、16日になってからだった。それまで、敵陣のど真ん中に居続けたことにある。右翼の熊大隊(元の一木支隊)と砲兵隊は、さらに遅れ、加えて密林内で食糧が尽きたまま彷徨することになった。後日、「餓死寸前」の状態で発見される。

 

 

一方のラバウルでは、川口支隊長の敗報を受けたのが翌15日の朝であり、つまり、上記の島西側へ撤退に関する支隊長命令が出たあとになって、折り返し第十七軍から、川口支隊長に命令文が届いた。それが戦史叢書に載っている。句読点を適宜入れます。

 

マタニカウ河河盂(含む)以西において、成るべく敵飛行場に近く、攻勢の拠点を占領し、敵情を捜索すると共に、為し得る限り敵航空勢力の活動を妨害するに努め、また、カミンボ湾附近に上陸拠点を占領し、同拠点と支隊主力間の交通を確保す。

 

 

このうち、河盂(「かう」とフリガナがある)という言葉は、わが広辞苑にも漢和辞典にも載っていない。「盂」は口の開いたお盆や鉢あるいは形状が似たものを指すそうだ。河口あたりの低地の意味なのだろうか?

 

このあと日本軍の拠点と戦場は、島の西側に移る。マタニカウ・カミンボ・タサファロングといった地名が、頻出するようになる。カミンボは島の北西端にある湾で、エスペランス岬のすぐ南西にあり、以前、岡部隊の舟艇機動の多くが上陸した場所だ。つまり、ラバウルやショートランドに近い。以後、ここを上陸地点として確保し、前線のマタニカウ川左岸との間で、海岸沿いとなる交通確保をする計画になった。

 

15日、川口支隊の主力は、開通したばかりの舞鶴道を北西に移動し、海岸方面に向かった。テントを担架にして重傷者を運ぶには、交代で担ぐ役が4名ずつ二組、案内者が1名で、患者も入れると10人になる。全員が傷病者か、その運搬人になった。幸い、敵の本格的な追撃はなかった。この時点では。

 

 

 

(おわり)

 

 

 

 

 

 

うちの近所はなぜかバラが多い  (2018年4月30日撮影)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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