私が気に入っているアオくんの良いところは、優しくて紳士的なのに私に気を遣いすぎないところである。
ともすればあれやこれやと甲斐甲斐しく、こっちが疲れるくらいに気を遣ってくれる男性もいるけど、そういうのは面倒くさい。
こういう場所で、私を気にしすぎて他の人とまったく絡まない、というのではつまらないから、彼みたいに周囲の人とコミュニケーションを取ってくれるのは個人的にはとっても良い。


やす子への鞭打ちが終わったあと、何事もなかったかのようにまた2人に戻り、(この時に「ごめんね」と言わなかったのが100点満点であった。謝られたら、それはなんか私たちのフリーな関係性と違うから。)
見たいと言ったら自吊りを見せてくれた。


自吊りというのは字の如く、自分で自分を縛って吊ることである。
自分で自分を吊るって、なんか不思議。吊られる瞬間、今まで床に支えられてた体重はどこにいっちゃうの。
理科の授業で習った滑車の原理を思い出す。

パラシュートのハーネスみたいに両脚の付け根に縄をかけ、片足立ちになったアオくんが力を込めて縄を引き、腕の力だけで自重を待ち上げていく。
どう見たって細身ですらりとしたアオくんの、力を込めた腕に筋と血管がぎゅっと盛り上がる。縄よりもその男性性の美しさに見惚れていると、



わあああ
ブランコ!!面白そう!!私もやりたい!!


向こうで大きな声がして、ため息をつきたくなったが、どうやら店主に引き止められたらしく声の主はこっちまではやって来なかった。


アオくんは縄に吊られて無防備に浮いている。
その足下には、さっきの鞭。


やつ当たりではなくてよ。もちろん。
ただそこに自ら罠にかかったような男がいたので、しゃがんで静かにそれを手に取り、浮いた彼の腰を撫でて、くるりと回した。