飲んで、食べた。
私の肩の横あたりに呼び出しボタンがあるから、グラスが空くたびS氏の長い腕が伸びてくる。それが嬉しくて、気の利かないふりをしている。
順調に杯を重ねて、白かった向かいの顔はだんだん赤くなっていった。
私は仕事が忙しくてあんまり話題も無かったけど、珍しくS氏が近況についてあれこれ訊くから会話は続いた。
「そういや昨日はタイタニックをはじめて観た」
「タイタニック?TVで?」
「いや、いま映画館でやってる」
タイタニックなんてこの人が1人で観に行くだろうか。
だけど昨夜は日付が変わる前にLINEが来ていたしな。
こないだ言ってた、中華街に占いに行った話は絶対に1人じゃないと思うけど、今回は1人だったのかもしれない。
「泣いた?」
「恋愛モノで泣くことはないな」
「なんで急にタイタニックなんて」
「当時、友達が…」
しばらく思い出話とあれやこれやの映画の話に花が咲いた。
「映画なんてしばらく観てないな」
「俺はなんだかんだ月に2.3本は観てるかな」
そういえばいっしょに映画に行くだけの関係の女性が居ると昔、言ってたな。彼女とはどうなったろう。
S氏はカテゴリごとに女性を変える。
映画に行く相手、食事をする相手、縛る相手、飼う相手。
「仕事、忙しいか?何ヶ月経った」
「3ヶ月ちょっとかな。3食コンビニで済ませてたら、この3ヶ月で5キロ太った」
「そうか?もともと痩せてるから、標準体重くらいになったやろ」
裸になったらバレると思う。
そういや以前にこの人の前で裸になったのは、いつだったかな。
今夜はどうするつもりなんだろう。
いつしか話題は途切れがちになった。
居酒屋で流れるTVが沈黙を埋めるうち、お互いのスマホが同時に震えた。