軽く肩の確認をされたあと、なんにも言わないままに当然みたく目隠しされた。
私の許可なく、私の身体を自由にしてくれる男に弱い。
周囲に壁の気配がないガランと広がった空間で視覚を奪われるとなんだかVRの世界に入ったような気分になった。
背中に回した手のひらにロウさんが爪を立て、ギリリと掻く。手首に縄がかけられて、次第に不自由になる肉体から溶けて滲み出るように意識が解き放たれていく。
体を締め付ける縄の全部に均等に圧力がかかっていて、まどろみに似た意識の浮遊を妨げる尖った痛みはない。ふわふわと苦しい。
圧迫感と息苦しさと心地よさは矛盾しない。
なんにもできないから、なんにもしなくていい。相手が気をつけていてくれるから、自分の命にすら無責任でいてもいい。
縛られることに肉体の性感をさほど感じられない私は、この無責任になれる瞬間がたまらなく好きで縄を受けてるんだろう。
ぼんやりとしている体が背中の縄からぐっと引かれて吊り上がる。中途半端に膝立ちになった両脚の間にロウさんが腿を入れて、蹴るようにぐいと立たせる。
「カウンターに移っていいですか?」
さっきのあの男が、奥まった席からカウンターに移ったらしい。
こちらを見るためだろう。
巧いのに、なぜかあの人の縄では入れない。
その話は以前に何度か平和的に交わしたけど。
というか、私が酔える縄を打てるのは3人だけ。それはたぶん、技術じゃない。
大袈裟に言えば、この人に命を預けてもいいと思えるかどうかの違いなのかもしれない。