いつのまにか戻って向こうで荷物を解いていた、彼のもとに行く。

入り口側の吊り床まで向かう途中、女装の卓にチラリと目をやる。

すると、そのテーブルの奥、壁際にしつられられたソファ席に座る一人の男と目があった。


ふうん、やっぱり来ていたんだな。


一瞬視線を合わせただけで、何にも言わずに通り過ぎた。


ここのバーに来る前に、場所や雰囲気についてその男に質問した。


今日、行くの?


と訊かれたから、そうだと答えた。

そしたら数時間後に、


偶然、俺も行くことになった。


と返ってきたのだった。


「こっちからは絡まないから、暇だったら声をかけて。」


とのメッセージに特に何にも思わずにいたけれど、そうか、私がカップルで来店するとは思っていなかったんだな。

何度か口説かれたのをしばらくほったらかしにしていたから、わざわざ追いかけてきたと思うのはうぬぼれだろうか。


一瞬だけ交わした視線の色をアレコレ考えながら、吊り床の真下に座った。

ロウさんは、懸垂するみたいにして一度自分で吊り床の強度を確かめている。

彼に連れられてSMバーに行くのは正直、誇らしい。

見目も態度も技術もぜんぶ、自慢できる男だと思った。