「ビールを呑もう」


連れて行ってくれたのは、洒落たクラフトビールのお店だった。

木製の高いテーブル席に案内されて、重たい鞄をようやく下ろす。丸い座面の椅子は左右に回して高さが調整できるみたいだった。


「ちびっこに優しい。」


からかうように笑う。今日のS氏はとても機嫌が良さそうだった。

ぐるぐると椅子を回していちばん高くしてから背伸びして乗る。そのまま座ったS氏より目線が高くなった。


11000円から2000円程度の聞いたことない名前のビールを、説明書きを頼りに想像で注文する。

食べ物はいつも通り、S氏に任せる。

お腹は空いているのに胃のあたりは満ちていて、食べたい気持ちはぜんぜん無かった。



マスクを外したS氏は少し顎ひげが伸びていた。脚も下半身もきれいに処理しているくせに、ひげを伸ばしたがるのは不思議。


こうやって対面に座るといつもその顔をまじまじと見て、(別にぜんぜんイケメンなんかじゃないし。)と確認してしまうのだ。

色が白くて、眉がうすい。男性っぽい鼻。一重の目は感情の読めない不思議な半眼で、まつ毛もほとんど生えてない。

上下ともに薄いくちびるだけ、今日はうっすらと微笑んだように口角が上がっている。


イケメンじゃないと確認したあとにいつも思うことは、それでもこの男には抗いがたい色気がある。