興奮する高橋をなだめて適当な居酒屋につれていく。

ユカリは食に興味がないので、お高いレストランに行くより気を使わなくていい雑多な飲み屋の方が好き。



席に落ち着き、対面から見ると彼は46歳にして呪われた頭髪の持ち主で、ハゲ散らかした白髪をしている。

しかし短く刈られているので、その点で嫌悪感はない。


イキイキとした目をしており、表情も明るく滑舌よくハッキリ喋る。高橋克己や。

自信のある人は対面してて気持ちがいいですね。

別にモテなくもなさそうだが、アナタお金払ってまで女性に付き合ってもらわんとあかんの




お酒はあまり強くないらしいが、とりあえず乾杯。料理は向こうが勝手にガンガン頼んだ。


序盤からマシンガントークの高橋克己。

とにかく褒めちぎってくる。


途中、ユカリがそのサイトに登録したのも、誰かに会うのも初めてだと聞いて、業界事情を色々話してくれた。

なんだかけっこう業者やイタズラに騙されてきたらしく、


「そこそこ大きな会社の社長なのに情けない社員が知ったら泣く


と言っていたのが非常に好感が持てました。



仕事について聞いてみると、経営コンサルということで結構興味深い話が聞けた。


ユカリも自分の仕事があるが、最低賃金でアルバイトしていることにしておいたところ、コンサルしてくれる高橋。



「何年後にこうなりたい、っていう具体的な目標を決めて、

そこにLOCKしてやるんだよ!



身振り手振りで熱く語ってくれる話は確かに話し慣れているだけあって、説得力があった。

あまりに熱く語るので、面白くなってきて、



「わかりました!!LOCKします!!!」



と叫び返して固く握手しておいた。



あけすけに仕事についても色々話してくれ、これからのお付き合いについて考えてもらえるように疑問点はなんでも聞いてくれ、と言われたので突っ込んだ質問をたくさんした。



「不倫ってしたことないんですけど、奥さんに訴えられたりしませんか?」

「まずバレることがない。夫婦仲は冷え切っていて、妻はもう何年も僕に興味がない」

「お子さんがいるのに?」

「僕は子どもができない体質なんだ。息子は体外受精で授かってね



このあたりから、おやおや…?と思い始めるユカリ。


「病院で調べてもらったんだけど、自分がそうだと知った時はショックだったよ




はいはい、この流れ分かりますよー。

何言われるか分かりますよー。


しらんふりして進める。




「こういうのはほんとに初めてなんで不安がたくさんあるんですが」


遊びまくっているのはTinderなので嘘ではない。


「初めてが僕で本当にありがたい。サイトにはいろんな男がいるんで、気をつけた方がいいですよ。あっ、そうだ。忘れてた、申し訳ない!」


言いながら、鞄を漁り始める高橋。

小ぶりの革のケースを取り出したので、名刺か?と思い、ならばこちらも名刺をとコートに手を伸ばしかけたところで


「そのままでごめんなさいね」


一万円札を渡された。


「えっ?お金?」


不意を突かれて思わずフリーズしてしまう。

返そうとすると、


「受け取ってください、こういうのはケジメなんで。」



what??

なんのケジメや??




あっ、そっか!

これTinderやない、P活か!!



食事おごってもらって現金渡されるのってなんか不思議やね?!