「学校の夏休み短縮」について調べていたら次のような記事を見つけました。
 親野智可氏(教育評論家)が2017年8月にコメントしたものですが、吉田町の愚策を鋭い視点で批判しています。引用させていただきました。
 なお、こんな馬鹿げた愚策については、現場の猛反対、周りからの批判などにより吉田町は実施を撤回し、現在は中学校は1か月余り、小学校は20日程度の夏休みになっているようで、少しは安心しました。

 夏休みが10日間に短縮!?  「夏休み10日間」への短縮は日本を衰退させる
 静岡県吉田町の施策に唖然、呆然

 

 夏休みを目前にした7月15日に、耳を疑うようなニュースが報じられました。静岡県吉田町が、教員の長時間労働の解消のため、2018年度から町立小・中学校の夏休みを最短で10日間にし、春・冬休みについても合わせて3日間短縮するというのです。休みを減らして授業できる日数を増やすことで、1日6時限まである時間割がなくなり、4~5時限まででおさまるようにするとのこと。教員は翌日の授業準備の時間が確保でき、子どもの学力向上にもつながるとのことです。
 私は、吉田町の子どもと先生が気の毒でたまりません。みなさんは、自分が子どもだったらどうですか? 吉田町に住みたいと思いますか? 私だったら絶対に嫌です。子どもの身にもなってください。テレビでは海やレジャー施設で遊びまくる子どもたちの様子が映し出され、日本中が夏休みを謳歌している中で、自分たちだけがいつものように学校で勉強しなくてはならないのです。
 人間には休みが必要です。それは大人も子どもも同じです。休みがあってこそがんばれるのです。日頃から忙しい現代日本の子どもたちも、夏休みが長ければ少しはのんびりリラックスできます。日頃やりたくても十分できない趣味に熱中したり、楽しい遊びに没頭したりすることもできます。ぼうっとすることも大事ですし、そんな中で自分を見つめる時間も持てます。「無用の用」といって一見無用に見えることが実はとても大事なのです。
 そして、こうしたゆとりある時間の中でこそ子どもは伸びるのです。楽しいことで頭をフル回転しているときに、認識力、思考力、情報処理力、記憶力などが養われ、地頭が良くなります。集中力が鍛えられ、探究心も育ちます。自分がやりたいことを自分で見つけて主体的に取り組む、自己実現力やアクティブラーニングの力もつきます。独創的な発想をする力、自分の頭で主体的に考える力、人がやらないことにも果敢に挑戦するガッツなども育ちます。そして、「これなら誰にも負けない」と自信を持って言えるものができ、自己肯定感が育ちます。
 夏休みが減れば、子どもたちがいろいろな体験をする時間も減ります。自然に親しむ、セミにおしっこをかけられる、魚や動物と触れ合う、科学博物館でおもしろい実験をする、本物のロケットを見る……。そうした時間が減って、いつもの教室で教科書とノートで勉強するのです。
 親子で触れ合う時間も減ります。楽しい家族旅行、田舎の祖父母と過ごす時間、従兄弟と遊ぶ時間、これらもみんな減ります。スポーツのクラブやチームに入っている子は練習に参加する機会が減りますし、合宿、試合、遠征などにも参加できないかもしれません。塾や習い事に行く時間も減ります。塾の夏季講習とか空手教室の夏季特訓も参加できないかもしれません。

 やりたいことに没頭できた世代が活躍している
 今、日本では、子どもの頃に自分のやりたいことに没頭することができたゆとり世代の人たちが、大活躍しています。スポーツでは浅田真央、入江陵介、香川真司、田中将大。また、音楽やバレエなどの国際コンクールでもゆとり世代の日本人たちが良い成績をあげています。ビジネスでもゆとり世代の若い起業家たちが続々と誕生しつつあります。学校の授業時間数が減り、土日が休みになり、宿題も減り、学校に拘束される時間が減ったことで、その分、学校以外の場所で自分のとがった才能を伸ばす時間が十分に持てたことが大きいのです。
 スポーツや音楽では若い才能が早くから目立ちますが、もう少し経てば学問やその他の芸術の分野でもゆとり世代の大活躍が見られるはずです。反対に、学校が子どもたちを抱え込む時間が長くなれば、子ども各人が持つすばらしい才能を伸ばす事ができなくなります。平均的かつ歯車的な人ばかりが増えるでしょう。このような人は、きたるべきグローバル時代、そしてAIの時代においては活躍できないと言われているのに……。
 そもそも、世間でよく言われる「授業の時間数を増やせば学力が上がる」という考え自体が勘違いです。これについては文部科学省も認めていて、公式サイトにも「OECDのPISA調査などでも明らかなとおり、国際的に授業時数が少ないフィンランドの子どもたちが高い水準の読解力等を有するなど学力の水準と授業時間には明確な因果関係があるとは言えない」と明記されています。
 日本の授業は、ひとクラス最大40人の集団を相手に先生が1人で教える一斉授業です。子どもたちの学力にはかなりの開きがあり、特に算数・数学においては顕著です。先生はどの学力層に焦点を当てて授業をすればいいでしょうか? あまりレベルを上げてしまうと、ついてこれない子が増えます。あまり下げてしまうと進度が遅れて、教科書が終わらない事態になります。ですから、ほとんどの場合、中の下くらいに焦点を当てて進めます。ということは、よくわかっている子にはつまらない授業にならざるをえませんし、わからない子にはこれでもわからないのです。そういう子には個別指導が必要なのですが、これをしていると他の子たちを放っておくことになり、授業が成立しなくなります。ですから、大人数の一斉授業のまま授業時間数を増やしても、わからない子はわからないまま座っている時間が増えるだけなのです。
 本当に学力の底上げをしようと思ったら、教員の数を増やして少人数教育に舵を切る必要があります。OECD各国はすでに実行していて、たとえば教育立国として以前から注目されているフィンランドでは、ひとクラスが20人前後です。以前、私の同僚がフィンランドに1カ月間の視察に行き、その報告を聞いたときは日本とのあまりの違いに愕然としました。それによると、複数担任制も取り入れていて、20人の子どもを2人の先生で指導していたそうです。しかも、算数・数学などではアシスタントの先生も加わります。それでも、ついていけない子はスペシャルティーチャーが個別に教えるそうです。
 そこまでは難しいとしても、自治体の予算で教員の数を増やすことはすぐにできます。そうすれば教員の長時間労働の解消もできます。でも、これは本当は国レベルでやらなくてはならないことなのです。しかし、そういう動きは一向に見られません。日本はOECD加盟国の中でGDPに占める教育予算の割合が最下位(2015年)であり、それを恥ずかしいと思う気持ちすらないようです。

 OECD各国の夏休み事情
 さて、ここでOECD各国の夏休み事情を見てみましょう。アメリカの夏休みは州によって違いますが、短いところで2カ月半、長いところは3カ月です。学年の変わり目でもあり宿題はありません。子どもたちは、キャンプ、自然体験、スポーツ、水泳、レクリエーション、遊び、各種アクティビティなどに没頭します。さらに、春休み5日、感謝祭休み7日、クリスマスを含む年末年始の休みが15日あります。
 ドイツも州によって違いますが、夏休みは約6週間で日本とほぼ同じです。ところが、その他の長期休暇がたくさんあって、秋休み1~2週間、クリスマスの休み1週間、冬休み1週間、イースターを含む春休み2~3週間、聖霊降臨祭が12日です。
 フィンランドの夏休みは2カ月半です。その他にも、秋休み1週間、クリスマス休暇2週間、スキー休暇1週間、イースターを含む春休みがあります。ドイツもフィンランドもアメリカと同じように夏休みの宿題はなく、子どもたちは各種の遊びやアクティビティに精を出します。そして、他のヨーロッパ各国もだいたい同じような感じです。
 私は、こういったオンとオフのメリハリのある生活を謳歌してきた子どもたちが大人になると、やはりメリハリのある仕事ができるようになるのだと思います。私は経済の専門家ではないので断言はできませんが、それが国民1人当たりのGDPとも無関係ではないのではないかと思います。

 ※国民1人当たりの名目GDP順位(2016年)
  アメリカ8位、フィンランド17位、ドイツ19位、日本22位

 日本の国内総生産(GDP)は、アメリカと中国についで世界3位で、私たちは経済大国だと思っています。でも、国民1人当たりの名目GDPは世界22位であり、その生産性は極めて低く、国民1人が生み出す付加価値はとても少ないのが実態です。
 子ども時代に日本の2倍もある長い夏休みを謳歌しているアメリカ人の、1人当たりGDPは日本の約1.5倍にもなります。日本がGDPで世界3位でいられるのは、ヨーロッパのどの国より人口が多いからにすぎません。
 もちろん、日本の生産性が低い原因は数多くあると思いますが、私はオンとオフのメリハリのない仕事ぶりもその原因の1つではないかと思います。

 一年中忙しい状態になってしまう
 夏休みを減らして授業できる日数を増やせば、先生の長時間労働がなくなるとのことですが、これもありえないことです。なぜなら、先生たちは夏休み中も暇なわけではなく、数多くの仕事をしているからです。
 保護者面談、学習遅進児の個別指導、指導要録の記入、個人カルテの記入、健康診断表の記入、学級事務、会計処理、備品整理、各分掌の仕事、校内研修、指導計画の作成、教材研究と授業準備、理科室や体育用具の点検・整理整頓、グランド整備、プール当番、花壇や学校農園の整備、校舎の床のワックス掛け、図書館蔵書の点検・修理、遊具の安全点検、運動会や修学旅行など各種行事の計画立案と会議、その他諸々の会議、幼稚園・保育園・中学校などとの情報交換、地域の関係各機関との連携会議、PTAの会合など、普段できないような仕事を数多くやっています。
 夏休みが短くなれば、これらの仕事がこなせなくなり、普段の授業のある日にやることになります。ですから、吉田町の案によって、1日6時限まである時間割がなくなり、4~5時限まででおさまるようにしても、その空いた時間で今まで夏休みにやっていた仕事をやらなくてはならないのです。結局、普段できない仕事をまとめてできる夏休みさえ短くなり、一年中忙しく追いまくられるという状態になるだけです。
 夏休みを含めて休日が減れば、子ども連れで出かけたり子どもが欲しがる物を買ったりすることも減り、日本経済にとっても大きなマイナスでしょう。また、大人たちが国を挙げて「働き方改革だ。働きすぎをやめてワーク・ライフ・バランスを大切にしよう」などと言っておきながら、子どものスタディ・ライフ・バランスは無視するというのもおかしな話です。子どものときはバランスを無視しておいて、大人になって急に「ワーク・ライフ・バランスの実現を」と言っても無理です。
 子どもたちは夏休みを本当に楽しみにしています。それがたった10日になるなんて、かわいそうすぎます。休みが減ったら大人だって嫌でしょう。自分が嫌なことは子どもにも押しつけてはいけないのです。大人になるとなかなか休めません。せめて子どものときの夏休みくらいは休ませてあげてください。子どもの楽しみを奪わないでください。ですから、吉田町にお願いです。今ならまだ間に合います。ぜひ、勇気ある撤回をしてほしいと思います。
 先進各国では子ども時代の夏休みを謳歌し、大人になってからも2カ月のバカンスをエンジョイし、しかも仕事の生産性も高く1人当たりのGDPも高い。ひるがえって日本は? テレビなどでは、「ニッポンはすごい」とひたすら持ち上げる番組が流行っていますが、喜んでばかりはいられない不都合な現実があります。私たちは、なぜ、このように子どもの頃から追いまくられなければならないのでしょうか?もう一度よく考えてみる必要があるのではないでしょうか?

 

 「夏休みの思い出」が作れない少年時代 ? なんてあり得ません。これからも「夏休みの短縮」に猛反対していくぞ~。



にほんブログ村 釣りブログ 鮎釣りへ よろしくお願いします