工学的時間論とは、生産・在庫管理問題を解くとき、つまりタイムエンジアリング技術を適用する過程で用いられる時間概念を深く考察してまとめたものであるといえる。現時点では発展途上にあり完全な形を整えているとはいえないが、次のような仮説として記述することができる。
仮説1:時間の長さとは、観測者内のイベントをカウントした回数である。
仮説2:世界を構成する各系はそれぞれ独自にイベントを刻む時計を持つ。
仮説3:従って、時間の長さは相対的なものとなる。
仮説4:また、時間の長さは連続量ではなく離散値で測られる。
これらの仮説に基づく時間概念は、空間上の3次元の延長に時間軸を置かずに全く異なる次元を想定している点でベルクソンの批判に応えるものとなっており、時間の相対性を導く点ではアインシュタインの理論と矛盾しないものとなっていると考えられる。
仮説1に示したように、人類にとっての時とは、そもそもイベントの回数であったともいえる。太陽が昇り沈むというイベントで1日を数え、季節がめぐる回数で1年を数えたのである。古くは、1年は10ヶ月であったという。祝祭の回数で月を数えたため祝祭のない冬の間は古代人にとっては時の流れない期間であったからである。9月(September)が7番目(Sept)に由来し、10月(October)が8番目(Octo)に由来するのはその名残である。
仮説2により世界の構成要素はそれぞれ時計を持つことになる。現在物理的な時間は、「1秒は、セシウム133原子の基底状態の2つの超微細エネルギー准位の間の遷移に対応する放射の91億9263万1770周期の継続時間」という原子の振動数による厳密な定義がなされているが、同様な方法かあるいは別の方法かで、分子にも原子にも素粒子にもそれぞれ個別の時間が刻まれると考えるのである。生命の場合には、個体にも臓器にも細胞にも時計がそれぞれ存在すると考える。
素粒子の時計と原子の時計との関係、あるいは細胞の時計と臓器の時計の関係、つまり部分の時計と全体の時計との関係がどうなるのかは興味深い問題である。また、仮説3,4の時間長さの相対性や離散性についても、研究課題が数多く予想される。
これらの研究課題はタイムエンジニアリングの土俵上で追求することが可能であると考えられる。在庫拠点間の期のカウント方法を、具体的な在庫問題として解くことができるし、リードタイム分析の技術を発展させることで相対時間や離散時間の数学的な取扱手法が導かれる可能性がある。安全在庫の問題に帰着させることで、現実システムやシミュレーションで検証ができるからである。
タイムエンジニアリングでは、上記の仮説の上に手法体系を構築し、その有用性をもって仮説を検証し、妥当性を世に問いたいと考えている。