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Magic word★+゚

小説を書いて
いきます(^ω^)♪



夢を、見た。
近所の公園のベンチで、愛恵ちゃんと誰かが楽しそうに話している夢。
そのうらやましい誰かはこっちに背を向けて座っていて、後ろ姿しか見ることができない。
やわらかそうな栗色の短髪に襟つきの黄色い半袖シャツ、色褪せた水色の短パン。
どこかで見たことがあるような気がしたが、誰のものか思い出すことができずにやもきしていると、不意にその人物がこちらを振り返った。
その顔を見た瞬間、息が止まるかと思った。
それは、まぎれもない僕自身のものだったのだ。
驚きのあまり、なにもできずにいる僕を後目に、もうひとりの僕はふっ、とほほ笑んで、また愛恵ちゃんと話はじめる。
その笑みはまるで、愛恵ちゃんとまともに話すこともできない現実の僕を笑っているようだった。
夢の中でさえ感じる胸の痛みから逃れるように、僕は深い眠りに落ちていった。

顔を真っ赤にしてうつむいて話す女の子に俊くんもまた、気まずそうにうつむいて話を聞いていた。
「あー…俺、なんか、そういうの、よくわからんけんが…ごめんな」
あいかわらずうつむいて、頭をかきながら俊くんはゆっくりと言葉をつむぐ。
「そっか…ごめんね、ありがとう」
目に涙を浮かべたその女の子は走り去っていき、その場に1人残された俊くんは女の子の姿が見えなくなってからも顔をあげることはなく、ただ困ったように佇んでいた。
見てはいけないものを見てしまった。
そんな罪悪感に苛まれながら、こっそりと教室へ戻った。
俊くんの机の横にかかったボロボロのランドセルが、その持ち主がまた教室に戻ってくるということを示している。
どんな顔して会えばいいのだろう。
わからないままに自分の席に座り、足をぶらぶらさせていると、無理につくったことがばればれな笑顔の俊くんが入ってきた。
「待たしてごめんなー」
「う、うん」
「…?どうかしたと?」
「なんもなーい」
それはこっちのセリフだと言いたくなるのをおさえて、何もなかったようにランドセルを背負い、いつもより少し遅いペースで家へと帰った。
あのときもし、「ちょっと待ってて」と言って教室を出て行く俊くんの言葉を素直に守り、ずっと教室で待っていたら、僕は俊くんの変化に気づいていただろうか。
…きっと、気づいている。
聞き慣れた声、見慣れた顔、誰よりも、もしかしたら親といるよりも長い時間を2人で一緒に過ごしてきたかもしれない。
そんな俊くんだからこそ、僕はどんなささいな変化にだって気づける自信はあるし、逆も同じことなのだろう。
「健太郎」
返事をうながす声に、回想を中断した。
「やっぱすごかよ、俊くんは。僕がいくら悩んでも出せんかった答え、簡単に出してしまうっちゃけんね。僕、愛恵ちゃんのこと好きやったとね。」
「やっぱり気づいてなかったとね。健太郎らしいわ」
そう言ってほほ笑んだ顔が、頭をなでる手が、あったかくて、優しくて。
久しぶりにされたその行為に、よくされていた昔のことを思い出す。
「俊くん、最近あんまそれせんくなったね」
「気持ち悪いやろ、小4になってしょっちゅう頭なでてるって」
「俺は気にせんばい」
「俺が嫌と!」
そんなやりとりをかわしながら、自分でも気づかぬうちに止まっていた足を再び動かして家へと向かった。


登校中は普通に喋ることができるのに、教室に入り席に着くとどうもそういうわけにはいかない。
話したい、笑顔が見たい…。
なんで話しかけられないんだろう?
そんなことを考えているうちに、まったく集中できないまま授業が、一日が終わっていく。
なにもかわらないままそんな毎日がくりかえされ、気がつくと愛恵ちゃんが転校してきてから1ヶ月が経とうとしていた。
その日も、いつもと同じように俊くんと2人で帰っていた。
違ったのは、俊くんの雰囲気。
まったく似合わない深刻そうな様子を不審に思っていると、いつもより幾分か低い俊くんの声が耳に届いた。
「健太郎」
「ん?」
「健太郎ってよ、愛恵ちゃんのこと好きっちゃろ?」
「え!?」
質問自体にもだが、すでに確信したようなその言い方にさらに驚き、声がうわずる。
なんで?誰にも言ってないとに…。
頭の中をぐるぐるとまわる疑問が見えない鎖となって胸をしめつける。
苦しくて、息ができない。
「なんで俺が知ってるっちゃろとか考えとるやろ。」
うなずくこともせず、ただ目を見開いて俊くんを見つめていると、その人はやわらかく笑って僕の頭に手をおいた。
「何年一緒におると思っとると?健太郎最近ずっと変やったし、そんくらいわかるわ」
俊くんのその言葉に、曇っていた心がすっと晴れていく。
愛恵ちゃんに対して抱いていた、まだ幼い僕にはもてあましてしまうほどのその想いは「好き」というもの。
初めて体験した胸がしめつけられるような苦しみと、からだの中をなにかあったかいものが満たしていくような幸せを与えるものは、「恋」だったのだ。
誰が誰を好きだとか、そんな話をよく女子がしているのは知っていた。
本人は隠しとおせていると思っているだろうから黙っているけれど、今までに何回も俊くんが告白されていることも。
一度、その場面を見てしまったことがあった。