「俊くーん!」
遠くからでの一目瞭然な、他の人より頭ひとつ分とびぬけたその姿に声をかける。
「なんね?水曜日はドッジボールの日けん一緒に帰れんって言いよったやろ?」
投げようとしたボールを持ちなおし、早口でまくしたてる。
不機嫌なときの、俊くんの癖。
「そうじゃなくて、僕もまぜてくれん?」
広すぎるグラウンドのはじっこにいる俊くんたちのもとへたどりついて、はあ、とひとつ大きく息をつく。
そうして呼吸を整えてから、言い慣れない言葉をゆっくりと口にした。
「は?健太郎…今なんて?」
俊くんが聞きかえしたのは、聞きとれなかったわけでも意味がわからなかったわけでもなく、信じられなかったからだろう。
でも、それもあたりまえだ。
今まで、どんなに強く誘われても嫌だ、と固拒否をし続けていた僕が、自分からしたいと言っているのだから。
「僕もしたいって言いよると!」
慣れないことをしているせいかなんとなく気恥ずかしくて、それを隠すかのように語気を強める。
そんな僕の頭の上に手を置いた俊くんは、困ったような笑顔を浮かべた。
意味ありげに向けられる視線に、自分の心が、愛恵ちゃんへの気持ちが読まれているような気がして、それを避けるようにうつむく。
「じゃあお前あっちのチーム」
置かれていた手に頭を軽くおされ、少しよろけながらコートに入り空を仰ぐと、ボールが外野へと飛んでいくのが見えた。
結局、左手で投げるというハンデを負っているにもかかわらず、鬼のように強い俊くんにすぐにあてられてしまった。
そのままなにもできずに外野でぼーっと立っていると、下校のチャイムがグラウンドにまで鳴り響いた。
授業以外で初めてしたドッジボールは、やっぱり授業中と同じように、あまりおもしろいとは思えなかった。
新入りだからという理由でボールを任されたた僕は、素直にそれに従い返しにいく。
先生に驚かれながらボールを返し、職員室から下駄箱までは、待つのが嫌いな俊くんのことを考えて、先生に見つからないように注意しながら走った。
「遅かっさね」
案の定不機嫌そうにしている俊くんに謝り、急いで靴をはく。
なんだかんだ言いながらも先に帰ることはない俊くんの優しさが嬉しい。
いつものようにくだらない話をしながら、ふたりで家路をたどった。
途中で偶然愛恵ちゃんと会ったりしないかな、などと抱いたあわい期待は現実になることなく、オレンジ色の空へと溶けて消えていった――。