授業がはじまっても、帰りの会での席替えが頭から離れることはなく、授業に集中することなんてとてもできなかった。
そして、ようやく迎えた帰りの会。
「じゃあ席替えするぞー」
先生の一言で、ただでさえうるさかった教室がよけいにさわがしくなる。
「静かにせんば席替えせんけんな!」
席替えがなくなっては大変と話をやめるみんなに、先生は満足そうにうなずいて教室の端と端の子にくじを引く順番を決めるじゃんけんを促す。
運がいいのか悪いのか、2人だけなのに何回もあいこをくりかえした結果、勝ったのはグラウンド側の子だった。
廊下側に近い僕は、最後のほうかと少し落胆しながら席替えのくじが置いてある教壇をぼーっと眺める。
当然そのまわりにいるみんなも目にはいってきた。
引いたくじと黒板を交互に見て、一喜一憂する姿。
そして、これからの1か月の運命を左右するくじを引く順番待ちをしている列の中の愛恵ちゃんの姿。
友達と話している笑顔が朝のそれと重なり"一緒になれたらいいね"という言葉がよみがえる。
顔が熱くなるのを感じて机につっぷしていた僕は、くじを引いた愛恵ちゃんが自分に席の場所を伝えようとしていたことに気づかなかった。
そのせいで、あれだけ知りたかった愛恵ちゃんの席の場所を確認できたのは、みんながくじを引いて机を移動し終わった後だった。
僕は窓側の前から2番め。
愛恵ちゃんは真ん中の後ろから2番目。
教室の端と、またその反対の端だった前回よりはだいぶましだが、また遠い席に肩を落とした。
七夕さまにお願いしたの、意味なかったなあ…。
心の中でつぶやきながら空を見上げれば、雲ひとつない快晴で。
今年こそは逢えるであろう織姫と彦星を思って、ため息をついた。
「おはよう」
「おはよう」
月に一度の席替えで、5月6月と2か月連続で遠い席になってしまったせいか、学校で話すことはほとんどなくなっていた。
嫌われたのかな?と思いもしたが、朝はあいかわらず一緒に登校してくれていて、話しているときも特に変わった雰囲気もないからそうではないと思う。
学校までそう遠いわけではないから、けして長い時間とはいえない。
それでも、2人きりで話せる時間があるというだけで十分贅沢だと思う。
贅沢で貴重な時間だとわかっているのに、僕はこの時間を無駄にしてしまうことが多かった。
話したいという気持ちはいっぱいあるのに、言葉が出てこない。
愛恵ちゃんも自分から話すのはあまり得意ではないのか、沈黙のまま歩くことも少なくはなかった。
今日もそうなってしまうのかと心の中でため息をついた瞬間、愛恵ちゃんが声をあげた。
「あ!」
「え?」
「今日、席替えやね」
「えっ!?そうやったと?」
「うん。あ、先生が言ったとき健太郎くんおらんかったもんね」
「それいつ?」
「昨日」
「あ~俊くんば保健室に連れてったとき?」
「そうそう!」
昨日の体育の時間、サッカーをしていてこけてしまった俊くんを保健室に連れていったのを思いだし、納得した。
「また近くになれたらいいね」
そう言って笑う愛恵ちゃんに、顔が赤く染まる。
大好きな笑顔をこうして間近で見られることだけでも嬉しくてなんだか恥ずかしくて赤くなってしまうのに、そんな言葉までかけられてしまったら赤くならないでいれるはずがない。
「うん!」
つとめて自然な笑顔でこたえると、ふいに今日の日付を思い出して、何の日だったかに気づく。
今日七夕やん…
年に1度しかないんだから忘れててはもったいないと、そして愛恵ちゃんと少しでも多く話すきっかけになればな、とそのことを伝えようした。
しかし、次に頭に浮かんだことを考えて、やっぱり言えないと思いなおす。
また隣になれますようにと七夕さまにお願いしただなんて言えるはずがない。
もしそんなことが俊くんにばれたらまたロマンチストだとひやかされるに決まっているし、愛恵ちゃんだってどう思うかわからない。
結局今日が七夕だということを言えないまま学校についた。
「おはよう」
月に一度の席替えで、5月6月と2か月連続で遠い席になってしまったせいか、学校で話すことはほとんどなくなっていた。
嫌われたのかな?と思いもしたが、朝はあいかわらず一緒に登校してくれていて、話しているときも特に変わった雰囲気もないからそうではないと思う。
学校までそう遠いわけではないから、けして長い時間とはいえない。
それでも、2人きりで話せる時間があるというだけで十分贅沢だと思う。
贅沢で貴重な時間だとわかっているのに、僕はこの時間を無駄にしてしまうことが多かった。
話したいという気持ちはいっぱいあるのに、言葉が出てこない。
愛恵ちゃんも自分から話すのはあまり得意ではないのか、沈黙のまま歩くことも少なくはなかった。
今日もそうなってしまうのかと心の中でため息をついた瞬間、愛恵ちゃんが声をあげた。
「あ!」
「え?」
「今日、席替えやね」
「えっ!?そうやったと?」
「うん。あ、先生が言ったとき健太郎くんおらんかったもんね」
「それいつ?」
「昨日」
「あ~俊くんば保健室に連れてったとき?」
「そうそう!」
昨日の体育の時間、サッカーをしていてこけてしまった俊くんを保健室に連れていったのを思いだし、納得した。
「また近くになれたらいいね」
そう言って笑う愛恵ちゃんに、顔が赤く染まる。
大好きな笑顔をこうして間近で見られることだけでも嬉しくてなんだか恥ずかしくて赤くなってしまうのに、そんな言葉までかけられてしまったら赤くならないでいれるはずがない。
「うん!」
つとめて自然な笑顔でこたえると、ふいに今日の日付を思い出して、何の日だったかに気づく。
今日七夕やん…
年に1度しかないんだから忘れててはもったいないと、そして愛恵ちゃんと少しでも多く話すきっかけになればな、とそのことを伝えようした。
しかし、次に頭に浮かんだことを考えて、やっぱり言えないと思いなおす。
また隣になれますようにと七夕さまにお願いしただなんて言えるはずがない。
もしそんなことが俊くんにばれたらまたロマンチストだとひやかされるに決まっているし、愛恵ちゃんだってどう思うかわからない。
結局今日が七夕だということを言えないまま学校についた。
夢のせいでぐっすりと眠れなかったからだは気怠く、起きることを拒否していたが、下からはひっきりなしにお母さんが呼んでいる声が聞こえている。
起きないわけにはいかなかった。
今日は学校を休んでしまおうかとも思ったが、堪の鋭いお母さんを騙せるほどの演技力が自分あるとは思えなかった。
「おはよ…」
「今日は遅かったね。なんかあったと?」
「なんでもなか」
めずらしく寝起きの悪かった僕に、お母さんは心配そうな顔をしていた。
それがどうしてもわずらわしくて、顔を背け小さくこたえる。
あと20分もすれば愛恵ちゃんと会えるんだ。
憂鬱な気分をはねとばすように、自分にそう言い聞かせるが、いつもは嬉しいはずのそれは、ただ胸に痛みを残しただけだった。
