「おはよう」
「おはよう」
月に一度の席替えで、5月6月と2か月連続で遠い席になってしまったせいか、学校で話すことはほとんどなくなっていた。
嫌われたのかな?と思いもしたが、朝はあいかわらず一緒に登校してくれていて、話しているときも特に変わった雰囲気もないからそうではないと思う。
学校までそう遠いわけではないから、けして長い時間とはいえない。
それでも、2人きりで話せる時間があるというだけで十分贅沢だと思う。
贅沢で貴重な時間だとわかっているのに、僕はこの時間を無駄にしてしまうことが多かった。
話したいという気持ちはいっぱいあるのに、言葉が出てこない。
愛恵ちゃんも自分から話すのはあまり得意ではないのか、沈黙のまま歩くことも少なくはなかった。
今日もそうなってしまうのかと心の中でため息をついた瞬間、愛恵ちゃんが声をあげた。
「あ!」
「え?」
「今日、席替えやね」
「えっ!?そうやったと?」
「うん。あ、先生が言ったとき健太郎くんおらんかったもんね」
「それいつ?」
「昨日」
「あ~俊くんば保健室に連れてったとき?」
「そうそう!」
昨日の体育の時間、サッカーをしていてこけてしまった俊くんを保健室に連れていったのを思いだし、納得した。
「また近くになれたらいいね」
そう言って笑う愛恵ちゃんに、顔が赤く染まる。
大好きな笑顔をこうして間近で見られることだけでも嬉しくてなんだか恥ずかしくて赤くなってしまうのに、そんな言葉までかけられてしまったら赤くならないでいれるはずがない。
「うん!」
つとめて自然な笑顔でこたえると、ふいに今日の日付を思い出して、何の日だったかに気づく。
今日七夕やん…
年に1度しかないんだから忘れててはもったいないと、そして愛恵ちゃんと少しでも多く話すきっかけになればな、とそのことを伝えようした。
しかし、次に頭に浮かんだことを考えて、やっぱり言えないと思いなおす。
また隣になれますようにと七夕さまにお願いしただなんて言えるはずがない。
もしそんなことが俊くんにばれたらまたロマンチストだとひやかされるに決まっているし、愛恵ちゃんだってどう思うかわからない。
結局今日が七夕だということを言えないまま学校についた。