人の人生は、こんなにも静かに消えていくのだと、ふと思うことがあります。
特別な出来事があったわけではなくても、誰にも語られなかった時間や、

言葉にならなかった想いは、気づかないうちに、どこにも残らずに過ぎていきます。

以前、私は旅の文章を書いていました。

国内外のさまざまな場所を訪れ、その土地の空気や情景を言葉にする仕事です。

同時に、映画や舞台の脚本にも携わるようになり、人の感情や関係性を物語として描くことに向き合ってきました。

どちらも「何かを伝える」仕事でしたが、次第に「まだ言葉になっていないもの」に心が向くようになりました。

誰にも話してこなかったこと。
うまく言葉にできなかった記憶。
ふとした瞬間に思い出す、名前のつかない感情。

そうしたものに、そっと耳を澄ませてみたいと思ったのです。

今は、誰かの人生のお話を伺いながら、その方だけの物語として、静かに綴っていく仕事をしています。

うまく話せなくても、大丈夫です。
記憶が曖昧でも、言葉が途切れても。

ゆっくりと辿りながら、その人の中に確かにあった時間を、形にしていきます。

あとから読み返したときに、
「ああ、こんなふうに生きてきたんだ」と、少しあたたかい気持ちになれるような。
そんな物語を、残していけたらと思っています。