父の愛は海よりも深い | 佐渡の食と佐渡の食文化

佐渡の食と佐渡の食文化

生まれ育った佐渡の郷土の食や素材や料理法など綴っています。昭和の頃食べた伝統的な料理や素材にまつわる家族や村の話など交えて記憶に残る景色を綴っております。
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母の日が近いと言うのに

父の話を書くことをお許しください。

 

昭和42年頃のことである。

 

家族は既に夕食を終えている。

 

ちょっと都会?

マチで会議があると

決まって相川の寿司屋に立ち寄り

寿司折を自分も含め

人数分を買ってくる

さすがに飼い猫のシロの分はない。

 

本当は店で食べたいんだろうが

父は一度もそんなことをしたことが

なかった。

 

同僚には付き合いの悪い奴と

思われていただろう。

 

団体職員だった父は

慰安や研修旅行の添乗を

することもあったと。

 

そんな時も

外に飲みに行くこともせず

悪ガキ三人の着る服を買ってくるような

子煩悩の父であった。

 

玄関の引き戸が開く。

 

お帰り-!

の挨拶もせず三人は一目散に

目当ての魚の漢字が並ぶ

緑の包み紙の寿司折をひったくり

コタツ板に皿と折を並べる。

さすがにすぐには飛びつかない。

今では回転すし含めて

さび抜きが当たり前だが

昔はさび抜きなんてめんどくさがって

やってはくれない。

 

父が手を洗い

着替えて自分が飲むビールを

冷蔵庫から出しコタツに運び

子供がびりびりに破いた

包装紙と紐を丸めて蓋を開け

ネタをはがし

ワサビを割りばしでこそぎ落し

やっとビールにありつく。

悪ガキは鯛のカタチの赤いキャップから

醤油を豆皿にあけて

少し残っている醤油を舐める。

 

経木の折から匂い立つ

寿司とガリの香り。

 

さっき夕食を食べたばかりだが

寿司は別腹。

 

あっという間の出来事で

ガリと葉蘭を残して完食。

 

父は旨そうにビールを飲み干し

ペコペコのお腹を満たす。

 

時間をかけて戻ってきた父への

唯一の奉公は

スケトと大根の味噌汁を温め

大きめの丼に頭の部分を入れ

運んであげる。

 

父はその頭が大好物

そうすると干ぴょう巻一個をくれる。

 

東京の西麻布の路地裏に

著名な作家と同じ名前の

店主が営む寿司屋がある。

 

白木のカウンターに

まな板皿を挟み込む細工してある

紹介者がいないと入れない店。

 

丁寧な仕事と味は言うまでもないが

草の色の総織部のまな板皿が

めちゃくちゃ格好いい

聞けば美濃で特別に焼かせた作家物。

 

一流店の寿司屋に来て

コタツ板の折寿司を

思い出しているとは

さすがの連れも

思うまい。

 

しめしめ!