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「宮崎正弘の国際情勢解題」 
令和三年(2021)10月23日(土曜日)弐
通巻第7091号  
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 バイデン、対中輸出規制を大幅に緩和
  またも中国へハイテク輸出を連続して許可
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 米国のメーカーが中国の輸出に際して、商務省がブラックリストに掲載した相手先には逐一の許可が必要だった。
 トランプ前政権が中国を締め上げるための政治的な措置だったが、バイデン政権になって、この許可件数は鰻登りとなり、法は大きなザルのような「抜け穴」だったことが判明した。

 米国の半導体企業などに米商務省はファーウェイ向け輸出案件で申請のあった113件の輸出許可を与え、610億ドルのビジネスを展開していた。(2020年11月〜2021年4月速報)。
 SMIC向けには188件、420億ドル(同)。

 しかもファーウェイは米国グーグルと組んで、海外でHONOR50シリーズの生産を海外で行うと発表している。

 9月24日にファーウェイの副社長兼CFOの孟晩舟がカナダから釈放となり、深センに凱旋帰国した。バイデンはトランプ政権の「引き渡し」を忘れたかのように、「これはカナダの司法の独立である」として一切の追加措置を講じなかった。背景に米国実業界の親中派の商行為があったことになる。

 実際には米国司法省が、カナダの頭越しに中国との司法取引に応じ、またカナダは中国で人質となっていたカナダ国籍の二人の釈放との交換という条件に応じた。つまり中国の人質外交が成功したことになる。
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 サイバー戦争の究極の目標は相手の脳幹の造り替えだ
  ロシアと中国のサイバー工作の実態と、その効果ならびに未来 

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佐々木孝博『近未来戦の核心 サイバー戦』(育鵬社)
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 著者の佐々木氏は元ロシア駐在武官、海将補。サイバー戦争の専門家である。
 ロシアにはハッカー攻撃部隊が幾つかあるが、その「証跡(攻撃に遣われたIPアドレスなどの帰属、プログラムに遣われた言語、攻撃の行われた時刻帯、過去の同種の攻撃行動との比較など)から分析すると、GRU、FSB、SVRと関係が深いとみられる組織が対外的な任務を担っている」(135p)
 代表例が五つ。
 IRA(インターネットリサーチエージェンシー)
 APT28(ファンシー・ベア)
 APT29(COZY・ベア)
 ベノモウス・ベア
 ブードオ・ベア
 なかでもIRAは常時3〜400名の24時間態勢。「偽のアカウントを取得するため、実在の米国市民の社会保障番号などを用いてなりすましを行い,PAYPALに口座をひらき、フェイスブックに政治広告を掲載していた」。
2016年の主戦場は、ヒラリー攻撃だった。
 APT8と29はファイブアイズの命名分類であり、ほかの二つの組織も、宇宙航空、科学技術など極めて特殊な知識をもちエネルギーなど重要なインフラを狙う。
 しかもロシアは中国の「超限戦」を深く研究しているという。
 トランプの「ロシアゲート事件」なるものは民主党がでっち上げた「事件」だ。実際にはロシアが「ボランティア」のハッカー部隊を組織 して、ヒラリー陣営に不利となるフェイクニュースを流していた。
 ロシアの情報機関はヒラリーの落選を企図していたらしい。そうした活動をトランプ陣営は知らなかった。ただしロシアの代理人が複数回、トランプ陣営の幹部に接触していた事実はある。
いずれにしても、あれほど力瘤を入れたロシアゲート捜査だったが、何ひとつ証拠が挙がらず、トランプ弾劾は成立しなかった。其れはそうだろう、民主党と左翼メディアが仕組んだでっち上げだったのだから。
以前にも書いたが、ロシア政治の暗黒部分を仕切る「戦争請負業」(ロシア版ブラックウォーター)の最高幹部はプーチンのお友達、ロシアが展開するハイブリッド戦争とは、中国の展開する「超限戦」である。
 プーチンがハイブリッド戦争を世界戦略の基軸においた動機は、ロシアの軍事的劣勢を認識したからである。
ロシアはたしかに核大国だが、アメリカの核戦力と比較すれば、嘗ての優位は崩れた。あまつさえ宇宙空間では中国が優位に立った。
「火種がなければ火をおこせない」状況に陥ったロシアは諸外国の政治に経済支援や軍事援助などの露骨な介入ができず、影響力の行使もままならず、しかし選挙や政府への抗議行動がおきた国では、ハイブリッド戦争を仕掛けてロシア の対外能力を発揮する。
ロシアに戦争請負会社は20社近くあり、アフリカ各地へ数百名単位で派遣されている。あの絶体絶命に追い込まれたベネズエラのマドロゥ体制が、その後も独裁を維持できているのはロシアの支援である。
 げんにウクライナで米国が仕掛けた民主化の東進を防いだ。
 シリア内戦ではアサド体制維持で勝利した。ジョージアの対露戦争で勝った。ドイツやチェコにもサイバー攻撃を仕掛けて、かなりの成果をあげた。なにしろNATOの結束に亀裂を入れ、マクロン仏大統領は欧州軍の設立を言い出すまでに欧米関係が信頼を損ねる状況を造りだしたから。
 本書も参考文献にあげている廣瀬陽子『ハ イブリッド戦争 ──ロシアの新しい国家戦略』(講談社現代新書)は、ハイブリッド戦争を定義してこう言う。
「政治的目的を達成するために軍事敵脅迫とそれ以外のさまざまな手段、つまり、正規戦、非正規戦が組み合わされた戦争 の手法である。いわゆる軍事的な先頭に加え、政治、経済、外交、プロパガンダを含む情報、心理戦などのツールの他、テロ や犯罪行為なども公式、非公式に組み合わされて展開される。ハイブリッド戦争は、2013年11月の抗議行動に端を発するウクライナ危機でロシアが行使したものとして注目されるようになった」
ロシアの新思考が軍事戦略に適用された。
 「新しい戦争の形態や方法を再考すべきであり、21世紀の戦争ルールは大幅に変更される。とりわけ非軍事敵手段は、特定の場合には軍事力行使と比較してはるかに有効であること」(ゲラシモフ・ドクトリン)。
 ロシアと中国はお互いがサイバー攻撃を仕掛けないと約束したのも、西側へのサイバー攻撃と謀略に忙しく、「仲間同士」で、エネルギー をすり減らすようなことはやめようというわけである。
ただし筆者はロジャーズ前サイバー軍司令官と対談した際にこう言われたという。
「中国の影響工作の目標・ツールは、ロシアと異なる。中国は自国の評価、プレゼンス、立ち位置を高めようとしている。一方、ロシアは自国のことはさておき、相手国の国力を貶めるため、相手国の社会情勢の不安定化、分断、民主主義の信頼度の崩壊選挙の民主プロセスの崩壊などを企図している。また政治指導者の意思決定をロシアにとって有利な状況に導くという『認知領域』での戦いをおこなっている」(210p)
 とどのつまり、ロシア、中国が狙うのは認知領域における戦争である。
 偽情報を大量に流し、陽動などの情報をリークし、情報を操作して世論を動かす。
 すなわち「影響工作の主眼は、これらの手法を使って人間の脳内をコントロールすることである」(185p)。
 もっとも深刻な、ほとんど無防備なのが日本である。
世界で一番サイバー攻撃に脆弱な国、なにしろ国民に国防意識が希薄なうえ、国防予算は微々たる額、自主防衛が不可能な、 主権を半ば放棄したかたちの日本が、サイバー攻撃を防衛するにはどうすればよいのか。
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