遺品6 | 旧・スネコタンパコの「夏炉冬扇」物語

旧・スネコタンパコの「夏炉冬扇」物語

スネコタンパコの、見たり、聞いたり、読んだりした、無用のお話

 遺品のなかに、大型の本が十数冊あった。アメリカLIFE誌の『Life At Wor』、 ロバート・キャパの写真集『Enfants de la guerre, enfants de la paix』、和田誠の週刊文春表紙画集『カーニバル』などは取って置くことにしたが、『加山又造画集』や『エルミタージュ美術館』(全5巻)は保存状態も良くなかったので、捨てることにした。後者は一冊3キログラムはありそうな本だった。全5巻といっても、揃いではなく、第1巻が3冊、第2巻が2冊あったかと思えば、第5巻はなく、合計7冊あって、どういうことなのか、いまだ謎である。実家の遺品整理の時には、これを積み上げて、脚立代わりに使っていた。

 

            

   

 捨てようか迷った本に『しもつけひとがた』があった。小山市の無形文化財に登録されている、下野しぼり和紙を使った下野人形の作り方や作品を解説した本で、著者の諏訪重雄はすでに他界しているようで、現在は、娘のちひろがその技術を継承しているようである。そこで、ダメもとで、小山市中央図書館に、寄贈したいのだが、と電話してみた。文化財保護の観点からもぜひお受けしたいと、あっさりこちらの要望を受け入れてくれた。

 



《耐えがたい懊悩にさいなまれる、女の哀しさ》などと、艶っぽいことも書かれている

小山市中央図書館


 そこで、先日、車で、小山市城東にある小山市中央図書館まで本を持って行った。この本は3キログラム以上は間違いなくある。応対してくれた女性職員は、この本は図書館に一冊しかないので、うれしい限りであるといい、感謝された。そこで、すかさず、他にも、これこれこういう珍しい本があるのだが…云々と、軽くジャブを繰り出すと、図書館も飽和状態で…云々と、カウンターを食らい、すごすごと引き下がるしかなかった。それでも、捨てるには忍びなかった本の貰い手が見つかって、なんかほっとした。



 図書館の隣は公園になっており、そこにこんな記念碑を見つけたのはめっけ物だった。そこには、こう書かれてあった。

 



 《昔辨天池のあった場所は、土塔と泉崎の堺、冨士通学校通り、結城街道北側。泉崎地内に、「片葉のヨシ」の茂った大小二つの池があった…云々》

 


 「片葉のアシ」ではなく、ヨシと云っているところが面白い。本来は「片葉の葦(アシ)」なのだが、日本的には、「アシ」が「悪し」に通じるというので、「良し」、つまり「ヨシ」に変えたわけである。にもかかわらず、全国に分布する「片葉の葦(アシ)」伝説では、「片葉のヨシ」とはいわず、あくまでも「片葉のアシ」なのである。つまり、アシにバイアスがかかっている。それはなぜかといえば、「片葉の葦」とは、すなわち「片輪の足」のことだからにほかならない。

 ところで、この文鎮も、実は、遺品なんである。