初代タイガーマスク回想録の続きです。

わたしの方から見た真実です。


パンチのフルスパーリングを経験したのは十代の頃、

あのマークコステロ戦の三ヶ月前でした。

キックボクシングジムの多くの場合、

パンチをフルパワーでやることはあっても、

全体のスパーリングはそれらを、ライトスパーリング(30〜60%の力)でこなすのです。

その代わりミットやサンドバックを、実戦相手と想定して打ちます。
(この時、打撃の型や威力など様々な技術を養いますが、実戦用の圧力をも計算にいれます)

打倒ムエタイを目標にしていた当時の目白ジムの場合、

タイ人と同じ事をやっていては勝てないと、

タイ式とは全く違うリズムと攻め方で構成された技術でした。

それはまるで総合の明日へと繋がる、

低重心アップライト
(ボクシングとレスングを足したような安定を保ち、かつ動けるステップと、ボクシングよりも少しアップライトぎみの構えで、後に総合の基本とした)
というしっかりとした構えから出す、

カウンター式のパンチとキックの連携だったのです。


ある日、ジムでいきなりパンチのフルスパーリングをやることになりました。

まだ基本もままならない私でしたが、

目白ジム独特の攻撃を身に付けるための練習を、

竹刀で叩かれながら、上下左右、前進前進を繰り返し叩きこまれていました。

上とはパンチ、下とはローキックが基本です。

パンチは蹴りや肘や首相撲があると、
フットワークや出し方やタイミングなど、

ボクシングの技術とはかなり違うものになります。

ましてやタックルがある総合では、更に違うのです。

ボクシングのように手だけで打ち合うには、軽やかなフットワーやウイービングなど、より多数の技術が必要ですが、

距離やタイミング的にも、キックやタックルの餌食になりやすく、

反対に言えば、キックや総合に見られるカウンター式のパンチは、

キックボクシングの場合、ボクシングでは不都合な(足腰のタメのない)アップライトで、しかも大きな出し方という事になります。

総合では両者の特徴ブラス、距離感の違いと、

タックルのタイミングやバランスを、反映させなくてはならず、

フットワークを含め長い所くらのパンチになりやすく、足腰も全く違い、甘く見えます。

また、ボクシングのサイドに避けるウイービングも、

総合ではより深く前方サイドへ入る事により、

そのままタックルに入る基本を兼ねるのです。

出すときから打ち終わりまで、防御が出来る距離と、

さばける足腰で、タイミングを取りながら、

対処できる体勢でなければなりません。

その構えの基本とは正確に言えば、パンチ・キック・首相撲・タックル
(上方ボディー及び下方・ダブル・シングル・足首)への自然な大勢です。

崩れず打撃に対処し、タックルや組み等へ瞬時に移行させる。

これら特徴を、何も考えずこなすようになるのが総合の基本なです。

最近のタックルは踏み込みである後ろ足のつま先が12時、

即ち真っ直ぐ相手の方へ向く蹴り足で踏み込む方法が、主体となっていますが、

打撃時にこの足だと、構えが正面を向き、不器用で危険な構えになってしまいますが、

そのぶん深くタックルに入って行けることにになり、

戦法や得意にする方を取れば良いでしょう。

打撃、組み、極め
全てが互角になると、

打撃に頼りたく追い込まれます。

即ち、打・投・極をしっかり回さなくてはなりません。


この位の知識はスーパータイガージムをやる時、既に大体は持っていました。

しかし私が選手としてではなく(当時、「第二世界」の試合をする環境はありませんでした)、

将来のスボーツとして20〜30年後を考えていたのです。

後は、どういう技術をより見つけるか貪欲に求めていたのでした。


十代の頃の私は、

タックルをどう入るかという、

タックル至上主義みたいなものを主としていました。

コステロ戦の後、打撃に芽生えたと言うのは、

前記の基本的過程となるもので、ボクシングやキックの完全な取得ではありません。


さて十代での、初めてのフルスパーは、

理論なんて正直、全く考えていませんでした。

それは何と相手が当時、全日本キックのチャンピオンである、藤原先生だったのです。

私が85キロ、先生が62キロという差でした。

黒崎先生や島さんもいらしたと思います。

このフルスパーリングは気合が入りました。

まるで気合だけの暴走機関車でした。

突っ込んでいって力任せに振り回すだけ、周りも唖然としたと思います。

先生のパンチは正確に私を捉えますが、
体重差があります。

私は暴走を止めません。

前進の魂とX攻撃の基本しか、教えてもらってない時期ですから……、

ロープに詰めておもいきり打ち続けました。

ナックルなんか当たってなかったと思います。

さすがに先生は両手で硬いガードをしてヒットさせません。

しかし途中でタイムが入ります。

体重差があるから前蹴りをさせろという提案でした。

勿論、従うしかありません。

私が猛攻をかけると、先生の前蹴りが私の前進をストップさせ、

バンチが当たりません。

私がとっさにとった行動は、先生の前蹴りに合わせ、
飛んで上から足を封じ、更に猛攻を仕掛けたのです。

ゴングが鳴り休憩。

次はキックありのスパーリングのようでしたが、

「お前は危ない」
二度とやらないと言われました。
(多分、ライトスパーでの手加減が出来ないと……)

私はスタミナを使い果たしていて、

後のラウンドはもたないかもと
思っていたのですが、

そこに、蹴り膝、膝、肘があるスパーリングでは叶うわけもなく、

ラッキーでした。


それから何年か後、海外遠征を経て、

タイガーマスクで帰って来て最初の頃、

新日本の道場で、当時、空手をやっていた95キロ位の若手選手ををつかまえ、

海外で培い、或いは落ちた、打撃の証明の

ボクシングのフルスパーリングを試しました。