━━━━━━━━━━━━━━ vol.68 2016.02.05 ━━
☆ジャスミンライス流星群☆ 【ヒカルチチのメルマガ】
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こんにちは。
ライオンズジムマネージャーで、篠原光のトレーナー兼父親の、シノハラです。
前回、カレーを作って楽しかったという話しを書いた。
それで、今度カレーを作るためのスープに牛骨を使いたいと書いた。
どなたか牛骨が手に入る店とか場所をご存知でしたら教えてください。
そう書いたんだけど、それについてはどなたからも返事がもらえなかった。
やっぱ牛の骨なんか普通の家庭に必要ないものだし、売ってる店なんか簡単に見つからないかもしれないな、と思った。
で、まあもういいかと、あきらめようとしていたら、おれの頭にひらめいた。
アジア食材店ならあるかもしれない。と。
おれはカレーが好きなくらいだからアジア食材店も好きだ。
あそこはあひるや鴨や烏骨鶏が内臓だけ除かれその姿のまま売ってるし、羊の内臓やら豚の顔面やらがあるくらいだから。
たぶん、牛の骨くらいはあるんじゃないだろうか。
あの生ものとスパイスが入り混じった、尖った感じのにおいを想像するとわくわくしてきた。
いてもたってもいられなくなった。
よし、池袋へ行こう。
そう思いついたのは、二月二日。火曜日の朝だった。
二月二日はおれの誕生日だ。
四十六歳になった。
今日は好きなことをする日にしよう。
池袋へ行って、リトルチャイナをぶらぶらして、ジュンク堂で好きな本を立ち読みしまくろう。
そんなふうにしてその日は始まった。
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■誕生日
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誕生日はなんとなくうれしい。
四十過ぎてからは疲れやすく、年を取るのがうれしいということではないけど、この二月二日という字を見るとまた去年から一年過ぎたんだなあと実感する。
去年のおれを思い出し、三年前を思い出し、十年前を思い出す。
変わっていく生活を思い、うれしくなる。
来年もおれは変えると思う。
大人なので普段付き合っている方に、おれ今日誕生日だぜなどとは言わない。
でもSNSで誕生日は書いてあるので、朝からお祝いメッセージがどんどん来てびっくりした。
実際に仲がいい人たちからも、まだ会ったことがない人たちからもおめでとうと言ってもらった。
うれしかったけどわざわざ悪いなあって気もした。
おれは今日やるべきいろいろなことを置いて、池袋へ向かった。
池袋に着いた時間は昼めしどきだった。
鶏ラーメンを食いたい気分だったけど、西口からなんとなく狭い道へ進んでいくとパキスタンレストランと書かれた店があり、それがそのときのおれの気分によかった。
スマホで食べログを見ると得点が3.5以上あるので、味もいいんだろうなと思った。
昭和の喫茶店みたいな雰囲気だった。
看板はプラスチックの緑色のネオンだし、古いガラス張りの中の店内は薄暗そうだった。
店外のメニューには本場カレー専門店となっていて、一番安いランチセットが700円だった。
いちげんの客としては入りづらそうな雰囲気だったけどおれはドアを押した。
入るといきなり煙草のにおいがした。スパイスの香りに混ざり、目にくるくらいの空気だった。
嫌な感じがしたが、次に気がついたのは、店内には日本人が誰もいなかった。
店員もお客もぼそぼそ会話していて、それは日本語でも英語でもなかった。
カウンター奥に大型テレビが映っていて、ニュース映像みたいだった。
下の字幕ににょろにょろした字が左から右へ流れていて、それはアラビア語のようだった。
パキスタンって中東だったっけかなあと考えてみた。
パキスタンの位置をスマホで調べるとインドとアフガニスタンの間だった。アラブと言えばアラブだ。
おれはカウンター横のテーブルに座った。
灰皿の隣りに置いてあったメニュー本は、昔子供の頃におれのおじいさんに連れていってもらった喫茶店にあった茶色のビニール張りのメニュー本と一緒だった。
中にはたくさんのカレーの種類が日本語と英語で書いてあった。
ラミネートフィルムのランチメニューが一枚挟まっていて、おれはマトンカレーを頼んだ。
店内のにおいから、羊の肉が一番この店に合いそうな気がした。
フロア係はぎょろ目で無表情の男で、顔は痩せているのに腹は出ていた。
五十過ぎくらいに見えるのに背は高く、日本語がうまかった。
おれは注文して落ち着いたので、メニュー本をじっくり見ていた。
しばらく見てたらすごいのがあった。
『ブレンマサラ・羊の脳みそのカレー』という料理だった。
「これは夜だけ？」とぎょろ目の男に聞くと、「いつでも」と答え、また無表情で言った。
男はカウンターの奥で座っていて、スマホでヘッドホンをつなぎ音楽を聴いていたが、おれの声は聞こえるようだった。
マトンカレーは五分くらいですぐ出てきた。
スパイスの量がすごく、これまで食べたことがないほどに舌と鼻を刺した。
でも単にからいというわけではなかった。
羊の肉は深い新鮮な血がおれの血管に滑り込んできたようで、まるでおれ自身が空腹の野犬になり、これは獣が数日ぶりの狩りに成功したような喜びだろうなと思った。
ナンもぱりっとしていて、これほどオイルのにおいがふわっとくるナンはこれまで食べたことがなかった。
おれは食事に夢中になった。
あまりにも感動してしまい、店内で話される男達の言葉や暗がりに浮かぶテレビ画面など、おれの日常からずれた空気が気持ちよくなってきた。においやほこりがちくちくとおれの目や皮膚を刺激する感じだった。
羊の脳みそのカレーを想像するとすごく怖くて、いつか絶対食べたいと思った。
でもそれは今日じゃないと思った。
ぎょろ目は音楽を聴きながらたまに客席を周り、アラブの顔をした客と低い声で話をした。
客もみんなだいたい無表情だったが、言葉数は多かった。
野戦病院ってこんな雰囲気かもしれないという重低音の会話があちこちでした。
おれのマトンカレーは気がついたらなくなってしまった。
あっというまに食べ終わり、気づいたときは満腹になっていた。
ぎょろ目に代金を払うときに、こんなうまいカレーは久しぶりに食べたとおれは言った。
ぎょろ目の口元が少し緩んだように見えた。
薄暗い店を出ると、そこは池袋だったけど、詳しい場所が思い出せなくてしばらく立ち尽くした。
そういえば駅前通りから少し入った路地だったので、ほっとした。
すぐものを忘れてしまう。
おれは池袋へ何しにきたんだっけと考え、そうだ誕生日だから遊びにきただけだと思い出した。
牛骨があるに違いないと、リトルチャイナに探しにきたことを思い出した。
それでまた路地を進み、アジア食材屋へ行った。
店に入るとそこは中国語の漢字ばかり書いてあり、客も中国人ばかりだった。
店員も中国人だった。この街はアジア人が多いが、中国人はよくわかる。
落ち着きなく視線を動かしながら、客の気配を見ないようにしながら見ている。
肉の入った冷凍ケースへ行くと、牛骨はやはりすぐ見つかった。
でもおれはもう牛骨に興味がなくなっていた。
二つ先のケースへ行った。
羊肉が並んでいた。
『羊腓肉』と書いてある袋を手に取った。
羊のふくらはぎの肉が骨ごと輪切りになっていた。
一袋１キロで1000円。
それを買った。
これで作るマトンカレーがおれからおれへの四十六歳の誕生日プレゼントだと思うとわくわくした。
凍った羊のふくらはぎをショルダーバッグに背負い、大型書店へ行った。
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■本屋
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夕方ジムへ行くので、三時間立ち読みした。
この大型書店は地下一階の九階建てで各フロアに椅子が並んでいて、自由に座って本が読める。
時間があっというまに過ぎてしまった。
その日は一冊、法律についての本を買った。
三冊くらい欲しかった本のうち、一番おもしろくなさそうな本を選んでしまったけどまあいいやと思った。
今年のおれは本をよく読む。
三時間くらい本屋にいた時間は、一時間くらいにしか感じなかった。
最近はなにか集中し出すと一日があっというまに始まり終わるので、それを思うと今日もさびしかったなと思った。
夕方、かみさんから「今日はどこかへごちそう食べに行きますか」とメールが来た。
おれは「いや。今日はいいや」と言った。
かみさんの実家で、天ぷらを作ってくれるって言ったので喜んで行った。
天ぷらはうまかった。ぱくぱく食った。あっというまに満足になった。
ケーキも買っておいてくれたけど、別になくてもよかった。
最近はすぐに腹が膨れる。
たくさん食えたからと言って特に喜びを感じることはなくなった。
体が変わったのを実感すると年を取ったなとしみじみする。
腹がいっぱいになるとすぐ家に帰りたくなった。
買ってきた本を読みたかった。
おばあちゃんやお兄ちゃんやかみさんが世間話をしている。
ヒカルはテレビを見ていて、おれはぼんやりしていた。
人の会話がおれの耳に入っては抜けていった。
テレビで人が話している言葉なのか。この部屋の会話なのか。
今日はパキスタンレストランに行って楽しかったと思い出した。
あそこで聞こえてきた会話やにおいは気持ちよかった。
あれが今年のおれの誕生日のハイライトだなと思った。
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【編集後記】
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
おれが今すごくやりたいのは、映画館で4DXの映画が観たい。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
http://www.unitedcinemas.jp/4dx/
今度休みの日に、家族で行きたいと思っている。
それを家族からおれへの誕生日プレゼントにしてよと、かみさんに言った。
かみさんはいいよと言った。
映画を観た後に、みんなで羊の脳みそのカレーを食べに行こうと思った。
それは内緒にしておいて、いきなり注文してやろうと思っています。
きひひひ。
今回はヒカルの話はありません。
父娘トークもありません。
楽しみにしてくださっているみなさん、ごめんなさい。
UJ全国大会まであと五十日です。
今はとにかくこつこつやってます。
応援お願いします。
メルマガの感想や質問などどしどしお待ちしてます。
それではまた。
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