駅前で迷った。
調べればすぐにわかるけどたまには勘だけで動いてみるのもいい。
ロータリーにはあまりひとがいない。
いつもより風景が早く動いてる。
強い風が吹いてる。
低い音がビルにあたっていろんな方向から聞こえてくる。
吹き上げられた埃がうつむき歩くひとたちに降り注ぐ。
ネジのとれた看板がかたかた震えてる。
雨が降りそうなにおいがするけど風がかき回している。
薄い灰色の雲が空の低いところでゆっくり模様を描く。
ロータリーに入ってきた車が大きな木のまわりを回っては出て行く。
その木は大波のようにうねってる。
木の音は懐かしさを感じる。
来たことがない土地だけど。
おれは渡り廊下の階段に寄りかかって途方に暮れてる。
肉を焼いたようなスパイスのにおいが一瞬だけした。
そのあとで若い女が目の前を通り過ぎたから後ろ姿を見送った。
風はぬるい。
歩き出したら背中から汗が出るかもしれない。
低いところを飛んでいた鳥が木の高い繁みの中へ戻っていった。
あの中にたくさんの巣があるんだと思う。
たくさんの鳥たちが出入りしているから。
ぼくはうらやましいと感じる。
一日に何度も家から出たり入ったりする暮らしは楽しそうだ。
ぼくらはいちど家を出たら夜まで帰らない。
疲れてもしかたない。
どこかで座ってコーヒーを飲むとしよう。
勘を働かすのはあきらめた。
もう家に帰りたい。
風に踊らされてなにが楽しいというんだろう。
