油絵を描いたことはないけどなんとなく楽しそうだというのはわかる。
一番おもてに表現された模様はダミーだ。
その下の下の下の下の下のずっとずっと下のキャンバスのすぐ上に、一番最初に筆が置かれたときにできた線が彼の本質だ。
油絵はおまえの本質をいかにじょうずに隠し、どのような人間性に見せたいかという演技だ。
世の中に同じようなゲームはたくさん転がっている。
ビジネスとか結婚生活とか社会活動そのものが油絵を描くような地道な作業だ。
命が続くかぎり筆は脳みそのパルスを刻むのをやめない。
雨上がりの朝の空を見てみればわかる。
深い雲がゆっくりと動いていく。
おれたちは飛行機に乗ったことがあればわかるが、雲の向こう側が青い空だということを知っている。
それでも何もない青空よりかは動いている雲を見ていたいんだ。
なにかが動き、なにかがなにかを隠す過程を見て、不安定な気持ちを持つぼくらを認識して安心したいだけなんだ。
でもけっきょく、おまえだけは安全な場所にいることをおまえは信じたいのさ。
目に見えるものだけが動いているけど、おまえのいるその場所は動かない。
そんなはずないとは思わないか。
ぼくらはもう忘れてしまった。
もといた場所や本当の気持ちを。
本当に気持ちよかった場所や心から気持ちいいと感じる遊びを。
おまえにはけっして口に出して教えることはできない。
ついてきな。
そうすればわかる。
ふたりじゃなくちゃだめだ。知恵を出しあって。
ひとりだといつのまにか楽になるための噓をついちゃう。
時間が過ぎていくうちに。次から次へと。動いていくうちに迷ってしまう。
塗りつぶされた白地図。
いったん方向が狂ってしまえばもう取り戻せない。
そういうものさ。だれだってひとりじゃだめなんだから。
おれだっておまえとおなじ。
なにも思い出せない。
雲の下の青空は何色。
青空の色は何色。
