小五の娘が窓を開けてとつぜんきょろきょろ上空を見上げ始めた。
ねえ。飛行機雲が出たら明日は雨なんでしょ。
そうだよ。
じゃあ明日は雨だ。だって飛行機雲が長いから。遠足なのに。
娘はがっかりした声を出した。
大丈夫だよとおれは言った。
たまに外れるんだよ。
おれはこないだ一回だけ外れたときを見たことがあるよ。
夜、家に帰るとてるてる坊主がベランダに吊るしてあった。
よくあるてるてる坊主のように頭が重くてひっくり返りそうになってた。
でも手紙が添えられてて、その紙の重みで辛うじてまっすぐぶら下がってた。
神様へ♡
明<日>はえん足な
ので晴れにして
ください
光より
文章がなんかふざけてるし、てるてる坊主の顔にまるで羽子板で負けたやつみたいな落書きがしてある。
おれが神様なら彼女の願いは断固、無視です。
そういうわけで、確定的に明日は朝から雨。
実は今日は朝からおれにもささやかな秘密があって誰かに話したかったけどそのことは彼女にも話さなかった。
おれたちは何でもしゃべり合う親子なんだけどしゃべれないこともある。
だんだんそういうのが増えてくるだろう。
こないだ学校で受けてきた性教育の授業の内容を淡々と話してくれたけど、やがて知識と現実が近づくにつれて徐々に口を閉ざすようになるだろう。
男女の脳の違いを説明するのはむずかしい。
おれたちはだんだん距離が遠くなるかもしれない。
かならずそうなるにちがいない。
心が晴れてほしいときにおれはてるてる坊主なんか作らない。
誰にも頼らないし相談もしないだろう。
おれの力でどうにかしてやるよ。
ずっとそうやってきたから。
おれの心は曇らない。
大丈夫。
なにがあっても大丈夫。
そんなわけないだろ。
