駅から線路沿いの小道を歩いた。
薄い桃色の桜が咲き始めていた。
まだ昼前だ。
高いところにいる太陽が街の空気を完全に乾かしていた。
電線や看板や枝の細い影がアスファルトのあちこちに目立つ。
錆びたシャッターが閉まった店が並んでいる。
こういう場所が好きなんだとおれが言ったら、知ってると言っておまえは笑った。
あんたはねずみだもの。
そう言って小さな公園のベンチに腰掛けた。
どういう意味かわからなかったけど、そうかもなとおれは言った。
おれは桜を見上げた。
もう暑いから明日かあさってには満開になってしまうんじゃないかと思った。
花が地面に落ちてしまえば春は終わる。
花が刹那的だなんて言うけれどあれは嘘で、本当はそれを見て感じている人間の心こそが弱いのだ。
春が終わろうが地球が終わろうが関係ないぜ。
一緒に楽しもうよ。
何があってもずっと一緒に。
おれはおまえの隣りに座って肩を組んだ。
おまえは口元を少し崩して横目でおれを見た。
それで、桜が最近なぜ白っぽくなってきたか知ってるかどうかおれに聞いた。
昔はもっとピンクだったでしょ。あたしたちが子供のころ。
そんなこと覚えてないよとおれは言いながら確かにもっとピンクだったかもしれないと思った。
どうせ地球温暖化とか大気汚染とか核汚染とか酸性雨とか黄砂とかむずかしいことを言い出すんだろうおまえは。
言い出したいんだろうおまえは。
何かを言いたいんだ。
言ったってしょうがないことを言いたいんだ。
おれはおまえの頭をなでた。
わかんないな。黄色の桜があってもいいのにな。
でも桜がもし真っ赤だったらおれはもっと桜のことが好きだよ。きっと。
白くなるなんて悪いことが起きるしるしかな。
ちがうよ。
年を取ったから白くなったんだよ。
そう言っておまえは笑った。
桜はもう疲れたんだよ。
それでおれも笑った。
まだ午前中だから今日はまだ時間がたくさんある。
ずっと一緒にいられる。
もう行こうよと言っておまえの手を握った。
手のひらの皮膚は乾いている。あたたかくも冷たくもない。
おれとちょうど同じ温度。
おまえもねずみだから。
