翌日、何とも言えない気まずい雰囲気が私の中にあって、多分それは黒田さんにも伝わっていたと思う。
 
私とばったり鉢合わせると、少し困ったみたいに笑ったから。
 
 
「おい、小春。暗い顔してんじゃねぇよ。」
 
 
隣りで思いっきり机の上に足を乗せてふんぞり返ってる要様を私は薄目で見つめる。
 
 
「朝から布団引き剥がされて、ピーマン無理やり口に突っ込まれた俺の方が今日はブルーだ。」
 
「子供か。」
 
 
こっちの気も知らないで、ピーマンごときでぎゃんぎゃんと。
 
私はそう彼の脇腹にダイレクトアタックしたくなりながら偉そう(本当に偉い)な要様を見つめ、溜息を吐いた。
 
 
「まず、俺と仲直り出来た翌日に溜息とか、なめてんの?またくちきかねぇぞ。」
 
「子供か。」
 
 
ここまで他人に対して鈍いといっそ清々しい。
 
いや、他人にそもそもの興味が無いのか。
 
 
「お前はさ、他人に干渉しすぎなんだよ。」
 
 
唐突にさっきまで子供みたいなこと言ってた要様が、机から足を降ろして私に視線を向けた。
 
 
「聖母様にでもなりたいわけ?やめとけ。過労死すんぞ。」
 
 
嫌味すら正当化させてしまいそうなほど私を見つめる視線は鋭くて、冷たい。
 
有無を言わさぬ感じって、きっとこういうことを言うんだろう。
 
 
「考えるだけ無駄だよ。人の気持ちなんて相手が伝えようとしなきゃ、こっちには一生わかんないもんだ。
お前みたいに素直に行動する奴もいりゃ、それを嫌がる奴もいる。」
 
 
そうだけど、そうなんだけど。
 
 
 
「でも、聞いてくれなきゃいいだせないことも沢山あるでしょ。」
 
 
咄嗟に反発しようと出た言葉にさえ、要様は表情を変えない。
 
 
「それが本当に聞いて欲しいことだったらな。」
 
 
さっきまで混じり合っていた視線が逸れた。
 
逸らしたのは要様の方だった。
 
 
「俺は、一生誰にも話さないでしまっておきたいことの方が沢山ある。」
 
 
黒田さんは、要様は私に心を許してるって言ったけど、本当は私に一番距離を取ってるんじゃないかって思うときがある。
 
私が一番何も知らないし。
 
遠い。
 
 
黒田さんのことだって、抱きしめられたことは前にもあったけど、今回のことをこんなに私が考え込んでしまうのは、彼がいつもの黒田さんじゃないみたいだったからだ。
 
 
「深入りして、傷つくのはお前だ。」
 
 
要様の言葉は確かに正しい。
 
普段子供みたいなくせして、急に大人びたこと言うんだから反則だ。
 
 
「それに。」
 
 
下唇を噛んで俯く私に、要様は更に続ける。
 
 
「黒田のことで悩むな。お前が悩むのは俺のことだけで十分だ。」
 
 
顔をあげた。
 
まぶたを瞬かせる。
 
星が飛びそうだ。
 
 
「はぁ?」
 
「他の男のことでごたごた言ってんじゃねぇよ。昨日の俺との感動の仲直りはどうした。」
 
「そんなつまらないこと言わないでくださいよ!」
 
「つまらないことー?俺の言葉のどこがつまらないことなんだよ。こっちは真剣だ!」
 
 
せっかく。せっかくさっきまでめちゃくちゃ大人っぽくてかっこいい感じでまとまってたのに、何でこの人はそうなるのか。
 
 
「ってか、なんで黒田さんだって分かって、」
 
 
溜息を吐いた後にそう切り出すと、怪訝な顔をした要様がおもむろに立ち上がり、
 
急に私のスカートのポケットに手を突っ込んできたのだから、びっくり。
 
 
「なにすんですか!この変態王子!!」
 
「誰が変態だ!!お前みたいな貧相な体の女に誰がこんな真昼間から手出すかよ!!」
 
 
「ひ、貧相な体で悪うござんしたね!!」
 
「うっせぇ、いちいち手間取らせんな!!」
 
 
そう言って要様が突き出してきたのは私の携帯。
 
 
ポケットから取り出したものはこれだったらしい。
 
そうならそうと、手を突っ込まずとも私に言えばすぐ解決したじゃないか。
 
 
「このキーホルダー!俺があげたもんじゃねぇし、お前が自分で買うわけねぇ。しかも、こんなことする奴は黒田しかいねぇ、それにどうせお前は付け方すらわかんねぇだろうから黒田に聞く、よって、黒田!!」
 
 
なんて洞察力だ。
 
こんなに頭が切れるのに、何故もっとテストの点が伸びない。
 
 
「その顔は正解だったみたいだな。」
 
 
ふっと笑った笑みは悪役さながらの悪さを兼ね備えてる。
 
 
「俺がいないとこで黒田に会うの禁止。」
 
「はぁ!?」
 
「俺様が禁止って言ったら禁止だ。」
 
「ちょっと、なにいってるんですか!!」
 
「俺は本気だ。」
 
 
呆れた。本当に呆れた。
 
溜息すら出てこない。
 
 
「そんなの絶対守りませんから!」
 
「なんだと!?」
 
 
「要、先生に呼ばれてる。」
 
 
私たちの言い争いは、唐突に乱入してきた女子生徒の声に遮断された。
 
 
 
 
to be countinued?
 
 
 
 
 
 
 
 
紅都 蓮