今、確かに君の声が聞こえた気がした。
でも振り替えって確認してみたところで、そこには誰もいない。
当たり前か。
そうぽつりと自嘲じみた笑みを浮かべて、傘もささずに土砂降りの雨の道を黙って進んでいく。
私には、君はちょっと優しすぎた。
優しすぎたんだ。
一歩一歩とぎこちなく進みながら、不意に襲ってくるこの泣きたいような感情に飲み込まれないように、下唇に噛みつく。
私の足が、もう昔みたいに動かなくなったのは、誰のせいでもない。
君のせいなんかじゃ、もっとない。
なのに、私が誰かのせいにしなきゃ生きられない弱い人間だったから。
君に悪いのを全部押し付けて、君に痛みを無理やり共有させたから。
君は優しかった。
どこまでも利己的な私と正反対なほど、君は優しかった。
君は悪くないのに。
一つも悪くないのに。
いつも痛みを背負って、でも笑って。
君が背負う必要なんて何もないのに。
答えはもう出てた。
最初からこうするべきだった。
君を巻き込んだりしちゃ、駄目だった。
すっかり動かなくなった足を松葉杖でひきづって、早朝のまだ暗い街を歩く。
まだ寝ていた君の寝顔は、穏やかで。
私はずっとこの穏やかな笑顔が好きだったんだなって思った。
困ったみたいな。
悲しい笑顔じゃなくって、優しい優しい笑顔が見たかったんだなって。
だってそっちの方が何百倍も好きだったから。
私が、それを奪ってしまうくらいなら、いっそ君の前からいなくなろう。
遠い遠い日に消えてしまおう。
雨音はなりやまない。
体はびしょびしょで、自分が泣いてるんだかそうじゃないんだか分からないくらい、顔もびしょびしょで。
好きだよ。
好きなの。
大好き。
びっくりするくらい大好き。
離れたくない。
側にいたい。
ずっと側にいたい。
雨の中にただ佇んで、雨で涙が隠れてくれることを願った。
このまま愛が冷めてしまうことを願った。
「るり。」
また、君の声がした気がした。
鮮明に。
雨音が聞こえなくなるくらいはっきりと。
「るり。」
もう一度。
声は近くなって。
「行かないで。」
後ろから抱き締められた腕は、確かに震えていた。
「なんで。」
強く抱き締められたその腕に、弱い私は抗えない。
震える唇から渇いた声が出た。
「なんで追いかけてきたの。」
そんなこと言って、本当は私が一番追いかけて来てほしいと望んでたくせに。
「もう、側にいたくな__」
「でも、俺は側にいたい。」
君は、私には優しすぎた。
どこまでも優しくて、どこまでも甘い。
「るりの痛みも、全部俺が背負うから。」
「駄目。」
「俺を悪者にしていいから、」
「駄目だってば…!!」
キンと響いた私の声に、雨音は見計らったみたいに強くなる。
「嫌だ。絶対に駄目。だって、悪くないのに。こうたは悪くないのに。」
傷つかないで、って、腕を振り払って、向き合った。
ほら、また悲しい顔。
ずっとずっと悲しい顔。
「傷ついてるのは、るりだよ。」
君が伸ばした手を思わず振り払った。
でも、君は無理やり私をうでの中に閉じ込める。
「俺がいると、るりが傷つくんだって分かってる。分かってる、けど。」
ぎゅって、腕の力が強くなる。
「俺がるりを離したくない。」
強く、強く、ぎゅーって抱き締められるのが好きだった。
二人で一つになった気がするから。
このままずっと、一緒にいれる気がするから。
「…早死にするよ…。」
ぽろぽろと、涙が溢れて、
雨に溶けていく。
「それでもいいよ。置いてかれたくないし。」
君の腕の力がだんだん緩くなって、顔が見えた。
雨は気づいたら止んでいて、
私を見下ろす君の表情は優しくて。
「朝、夢の中でるりの声がした気がしたんだ。」
君の言葉。
ずぶ濡れの二人。
ぐしゃぐしゃの笑顔。
愛が溶けないように。
少し優しすぎる君の手を、強く握って。
Fin
でも振り替えって確認してみたところで、そこには誰もいない。
当たり前か。
そうぽつりと自嘲じみた笑みを浮かべて、傘もささずに土砂降りの雨の道を黙って進んでいく。
私には、君はちょっと優しすぎた。
優しすぎたんだ。
一歩一歩とぎこちなく進みながら、不意に襲ってくるこの泣きたいような感情に飲み込まれないように、下唇に噛みつく。
私の足が、もう昔みたいに動かなくなったのは、誰のせいでもない。
君のせいなんかじゃ、もっとない。
なのに、私が誰かのせいにしなきゃ生きられない弱い人間だったから。
君に悪いのを全部押し付けて、君に痛みを無理やり共有させたから。
君は優しかった。
どこまでも利己的な私と正反対なほど、君は優しかった。
君は悪くないのに。
一つも悪くないのに。
いつも痛みを背負って、でも笑って。
君が背負う必要なんて何もないのに。
答えはもう出てた。
最初からこうするべきだった。
君を巻き込んだりしちゃ、駄目だった。
すっかり動かなくなった足を松葉杖でひきづって、早朝のまだ暗い街を歩く。
まだ寝ていた君の寝顔は、穏やかで。
私はずっとこの穏やかな笑顔が好きだったんだなって思った。
困ったみたいな。
悲しい笑顔じゃなくって、優しい優しい笑顔が見たかったんだなって。
だってそっちの方が何百倍も好きだったから。
私が、それを奪ってしまうくらいなら、いっそ君の前からいなくなろう。
遠い遠い日に消えてしまおう。
雨音はなりやまない。
体はびしょびしょで、自分が泣いてるんだかそうじゃないんだか分からないくらい、顔もびしょびしょで。
好きだよ。
好きなの。
大好き。
びっくりするくらい大好き。
離れたくない。
側にいたい。
ずっと側にいたい。
雨の中にただ佇んで、雨で涙が隠れてくれることを願った。
このまま愛が冷めてしまうことを願った。
「るり。」
また、君の声がした気がした。
鮮明に。
雨音が聞こえなくなるくらいはっきりと。
「るり。」
もう一度。
声は近くなって。
「行かないで。」
後ろから抱き締められた腕は、確かに震えていた。
「なんで。」
強く抱き締められたその腕に、弱い私は抗えない。
震える唇から渇いた声が出た。
「なんで追いかけてきたの。」
そんなこと言って、本当は私が一番追いかけて来てほしいと望んでたくせに。
「もう、側にいたくな__」
「でも、俺は側にいたい。」
君は、私には優しすぎた。
どこまでも優しくて、どこまでも甘い。
「るりの痛みも、全部俺が背負うから。」
「駄目。」
「俺を悪者にしていいから、」
「駄目だってば…!!」
キンと響いた私の声に、雨音は見計らったみたいに強くなる。
「嫌だ。絶対に駄目。だって、悪くないのに。こうたは悪くないのに。」
傷つかないで、って、腕を振り払って、向き合った。
ほら、また悲しい顔。
ずっとずっと悲しい顔。
「傷ついてるのは、るりだよ。」
君が伸ばした手を思わず振り払った。
でも、君は無理やり私をうでの中に閉じ込める。
「俺がいると、るりが傷つくんだって分かってる。分かってる、けど。」
ぎゅって、腕の力が強くなる。
「俺がるりを離したくない。」
強く、強く、ぎゅーって抱き締められるのが好きだった。
二人で一つになった気がするから。
このままずっと、一緒にいれる気がするから。
「…早死にするよ…。」
ぽろぽろと、涙が溢れて、
雨に溶けていく。
「それでもいいよ。置いてかれたくないし。」
君の腕の力がだんだん緩くなって、顔が見えた。
雨は気づいたら止んでいて、
私を見下ろす君の表情は優しくて。
「朝、夢の中でるりの声がした気がしたんだ。」
君の言葉。
ずぶ濡れの二人。
ぐしゃぐしゃの笑顔。
愛が溶けないように。
少し優しすぎる君の手を、強く握って。
Fin
