「ねぇ、愛してるって言って。」
真っ白い天井の一点を、特に何があるわけでもないけど見つめて、息を吐くみたいに、いや、どちらかといえば溜息みたいに、そう呟いた。
先にベットから出て上半身は裸のまま、TVをつけた彼は、何を思ったのか、つけたばかりのTVを止めてしまった。
私はゆっくり、彼の方に目線を向ける。
彼と目が合った。
「どうしたん?急に。」
目が合ったまま、彼が笑う。
目尻にしわがよる、くしゃっとした笑顔だった。
「どうもしてないよ。ちょっと甘えてみた。」
ごそごそっと、寝転がっている態勢を変えて、体も彼の方に向けた。
「あゆは甘え下手やな。」
彼がそう言って立ち上がる。
____甘え下手、だからかな。
「愛してるよ。」
彼の関西訛りが、私の耳に優しく響いて、何だか泣きたくなった。
私はこの声が、この喋り方がホントに好きだったから。
____ずるい。
彼が私の額に軽いキスをする。
その瞬間、ここ最近ずっと張っていたものが、ぷつんと切れてしまいそうになった。
「__ねぇ。」
「ん?」
「ばか。」
くるっとまた、態勢を反転して、背中を向けた。
「急にどないしたん?」
けたけたと笑いながら彼が私の髪を撫でる。
彼は気づいてない。私が今どんな気持ちでいるのか。
私が今、どんな顔してるのか。
さっき、目が合った時、彼と初めて会った時のことを思い出した。
人懐っこくて、明るくて、なのに私の目の奥をしっかり見て話してくれるところ。
『あゆちゃんて、目見て話してくれるからええ子やね。』
誰でも目を見て話せるわけじゃない。
あなたが、まっすぐ見つめてくるから、そらせないだけ。
それに応えようってしちゃうだけ。
『我が儘言ったってええよ?』
そんなこと言われたって、怖くて仕方ないの。
我が儘を言って、嫌われたらって。
突き放されたらって。
「あーゆ。」
優しい声。
静かにごろんと態勢を戻して、彼の目を見つめる。
どっちが先に突き放すんだろう。
私は、この酷く優しい嘘つきを突き放せるのかな。
「ねぇ。」
3度目のねぇ。
ねぇ、いつかあなたは私を突き放すのですか?
ねぇ、私はいらなくなっちゃいますか?
ねぇ、もしかして最初から、私はいらなかったのですか?
ねぇ
ねぇ
「__愛してるって、言って。」
彼がきょとんとした顔で、不思議そうに私の髪を撫でた。
「今日はちょっと変やね。」
そう言いながら私の唇にキスを落とす。
「世界で一番愛してる。」
彼の目の奥の、優しい色が好きだったの。
微笑む時の、優しい優しい目尻のしわが好きだったの。
嘘つき。
酷い人。
でも、嘘でもいい。
「__私も愛してる。」
もう、嘘でもいいよ。
だから、突き放さないでよ。
ずっと側にいてよ。
我が儘言わないから。
私よりも、もっと上手に甘えられて、我が儘言えるあの子に勝てなくてもいいから。
2番目でもなんでもいいから。
「変なあゆちゃんやなー。」
私はきっと、突き放せない。
この人がどんなに酷い人でも。
私以外の場所で、「愛してる」って囁いていたって。
いつか、突き放されるのかな。
いつか、あなたはあの子を選んじゃうのかな。
ねぇ、
ねぇ、
本当に聞きたいのは、愛してるって言葉なんかじゃないのに。
ねぇ、
ねぇ、
「ねぇ、」
4度目のねぇ。
その先の問いかけは、きっとあなたには聞けない。
fin.