2622のつづき
「洋平」
「おう、柳原じゃん。帰り?」
「そう、駅まで一緒に帰ろうよ。」
「いいよ」
「さっきさ、みなみに聞いたらあの話OKだったからさ、明日見に行くね」
「まだ、野球やるって決めたわけじゃないぜ」
「だってさ、いまさうちのクラスで話題になってるんだよ洋平のこと」
「なんで?」
「だってさ、アメフト部の慎吾とかケケのお兄ちゃんが洋平の運動能力がすごいって、皆に言ってたからさ」
「・・・・」
「洋平がどこの部活をやるのか注目されてるしさ」
「・・・・」
いま洋平の頭の中は、明日のフリーバッティングのことでいっぱいだった。
また伯父さんとこに電話すっか、わかんねえし。アドバイスもらおっと。
「ねえ、ちょっと、聞いてるあたしの話」
「あっごめんごめん、聞いてなかった」
「んもぉ~、とにかく明日行くからね。ケケと一緒に。」
「じゃあね。明日ね」
洋平は、さっきの野球部の連中との会話を思い起こしていた。そういえば、あいつ何っていったっけ、1年D組のぉぉぉ
中岡ぁぁぁ、流石、そう中岡流石。 柳原にどんな奴か聞いときゃよかったかな
家に帰ると、お袋が
「お帰り、いつもより遅かったわね」
「ただいま、うん、ちょっとね」
「お風呂湧いてるから、入っちゃってね。上がったころにご飯温めておくから」
「了解!」
お袋の名前は真由美、お父さんとは12歳離れている、同じ戌年
同じITの会社に勤めていて、その時に付き合っていたらしいが
会社が傾きかけて計画リストラの対象になって辞めたとか、それがきっかけで別れ転職した会社の人と社内結婚をしたらしい。
その後、お父さんも退職して、以前勤めていた外資系の友人に紹介された人と結婚。
そして、数年後に離婚。お袋も、その時すでに離婚していた。
それが神保町にある三省堂書店で、ばったり会って、バツイチ同士また付き合いだし結婚した。
その時お袋には、子どもが一人いた、それが優子姉ちゃん、そして結婚2年目で俺が産まれた。
優子姉ちゃんは、弟の俺をかなり可愛がってたらしく、一日中ぬいぐるみのように抱えてたらしい。
お風呂から上がって、食卓にいくと
優子姉ちゃんが、すでに座っていて、いまにも夕飯を食べたそうに待っていた
「洋平、早く早くぅ」
「姉ちゃんガッツキすぎだよ」
「だって、お腹がすいたんだもん」
「はいはい、じゃご飯にしましょ。いただきます。」
「いただきま~す」
「んご、これうっま!おかあさん、これうんっま!」
「何だよねえんちゃん、その食い方。口のまわりにケチャップがべっとべとにくっついてるぞ」
「だって、このオムレッテ美味しんだもん。本格的だよね、お母さんのオムレッテ」
「そおお?」
「お代わりないの?」
「もう食ったのかよ、早えェなあ。俺のやるよ」と洋平は食べかけの半分を優子にあげた
「おお、サンキューべらまっちゃ。 オムレッテは飲みもんじゃあ~」
「アホか。味わって食えよ!」
「洋平、お姉ちゃんにあげちゃったから、あんたの分無くなっちゃったんじゃない」
「いいよ、俺こっち食べるから」といって、餃子を食べはじめた
「じゃ、お父さんの食べれば?」とお袋が持ってきた
「あ~、じゃあ最初からそっちくれればよかったのにぃ」
「アホか、お父さんのだろ?食い意地はってんなぁ姉ちゃん」
「へへへへぇ、今日はいつもより食欲旺盛でありんす」
「お父さんの分どうすんの」
「お父さんのは、何かつくるから。伯父さんから貰った冷凍さんまもあるし、それ焼くから」
「ラッキー」
「何じゃそれ」
「ところでさ、洋平」
「ん?」
「部活どうした?」
「ああ、いま野球部にいる。明日で3日目で、フリーバッティングあるんだよ。どうすっかなあって思ってるところ」
「そお、あんたけっこう話題になってるらしいじゃん」
「え?何で知ってるの?」
「うちの学校で同じラクロス部に明日香めぐみって子いるんだけどさ、そのこの妹が洋平の学校にいるのよ。知ってる?1年D組の明日香みどりっていうの」
「転校して、まだ3週間だぜ。自分のクラスの名前覚えたばっかしで、他のクラスまでは無理っしょ。」
「まあまあまあ、そりゃそうっだ」
「その子が、隣のクラスに転校してきた石橋洋平って男の子がすごいって言ってて、もしかしたらあんたの弟?って聞かれてさ。ニュージーランドから転校してきたって人あんまりいないから、そうじゃない?って、おんなじ石橋だしって」
「ふ~ん」
お袋が「あら、洋平ってすごいんだぁ」
「って、自分の息子だろうが、いまさら感心するかぁ?」
「だって学校のことなんてわかるわけないでしょ。見に行ったわけじゃないし、監視してるわけでもないし、転校の手続きの時くらいだからね学校に行ったの、でもいつか見に行かなくっちゃね、結構保護者の人行ってるみたいじゃない」
「まあね、毎日誰か来てるね。そういえばこの間、初めて学校行ったときに案内してもらった柳原って子いるんだけど、彼女のご両親が来てたな。銀杏並木のところにベンチがいくつかあって、柳原とご両親が座って話込んでたよ。なんか5代続いてる魚屋さんなんだって」
「あら老舗なのね、ご挨拶しなくっちゃね。」
「いやいや、お母さんがいったときに、うまい具合にまた来てるわけないでしょ。まあ、好きにしてよ」
そんな天然の母親が好きな洋平だった
洋平は、夕食後にまた伯父さんに電話してフリーバッティングのアドバイスをもらうことにした
「そろそろ、寝っかなぁ」
とベッドに入って天井を見ながら、ふとニュージーランドで一緒だったマーチン・・・マーチン・ゲイルのことを思いだしていた。
「どうしてるかなあ、マーチン。もっと一緒にいたかったなあ」と彼と一緒にいたYear8からの3年間とYear11になったときのことを思い出していた。
インターミディエイトスクール(中学1年/Year8)に入ったばかりのころ、洋平はまさか自分が地元の学校に入れられるとは思ってもいなかった。そのまま日本人学校の中等部に行くものだと思っていたら。お父さんの仕事仲間の長男が、俺と同じ年で今度中学生になると聞いて情報を集めていたらしい。そこと同じクライストチャーチにある地元のインターミディエイトスクールに通わせようと考え、俺的には放りこまれた感がアリアリだった。
ニュージーランドの教育制度は日本のそれとは違う
日本では、小学校6年間、中学校3年間の9年間が義務教育、ニュージーランドでは6歳から16歳までの10年間が義務教育となっていて、5歳の誕生日から小学校の入学が許可される。16歳の誕生日を過ぎると義務教育は終了、それ以降は任意。
また、日本では小学校、中学校、高校と入学するたびに1年生から始まるけれども、ニュージーランドでは学年をYearと呼び、小学校から高校まで通しでYear1~Year13 と呼ぶ。
学校は4学期制になっていて、1月末から2月末に1学期が始まり、12月に4学期が終わる。4月、7月、9月にそれぞれ2週間のお休みがある。
初等教育:
・Primary School(Year 1~Year 6/ 5歳から11歳)
日本の小学校にあたり、5歳から11歳までがPrimary School。義務教育は6歳からだけれども、5歳の誕生日から入学が許可され、初等教育が開始される。6歳の誕生日からでも可能で、そのため、ニュージーランドの小学校には入学式がない。
中等教育:
・Intermediate School(Year 7~Year 8/ 12歳から13歳)
・Secondary School(Year 9 – Year 13/ 14歳から18歳)
ニュージーランドには、日本の中学校・高校にあたる中等教育学校(Secondary School)が400校以上あり、幅広い科目から選択して学ぶことができる。ニュージーランドでは、小学校から高校までずっと通し番号(Year1~13)でよんでいる。日本の高校にあたる学年(Year 11-13 )では、NCEAという国内統一学力判定試験を受け、高校修了を証する国会の認定資格を得ることができる。
(My留学 JTBニュージーランドより)
学年クラスは3クラス、都会の割には少人数の学校で身体の大きい連中が多い中で、ひときわ大きい奴が俺の隣に座っていた。それがマーチンとの出会い。実はマーチンも地元とはいえ、母親の実家に居候して、伯父さんと一緒に暮らしていた。もともとはベイオブプレンティ―で暮らしていたが教育のため田舎の学校よりも都会の学校に行かせたいという父親の意向で、仕方なくきたとか。しかも全寮制の男子校
そのマーチンが、隣の俺の方をチラチラ見ながら気になるらしく、声を掛けてきた。
「俺、マーチン・ゲイル、君は?」
「僕は、石橋洋平。よろしく」
「こちらこそ、よろしく。もしかして日本からきたの?」
「そう、3年前に来たんだ」
「そっか、俺はこの間、北島にあるベイオブプレンティ―からきて、1週間前まで母親の実家にいたんだ。日本人は・・・」
「洋平でいいよ」
「じゃあ、俺のことはマーチンな。そう洋平で2人目だな」
「そうなんだ、じゃあ1人目は?」
「お父さんの知り合いで田中淳史という人がいて、いつもアーチって呼んでたよ。随分前だけどね。俺がまだ5才くらいの頃かな、しばらく家にいたよ。お父さんのバイクの後ろに乗って、しょっちゅうあっちこっち行ってたよ」
「そうなんだ」
「その時に、教えてもらった日本語まだ覚えてるよ。」
「へえ~、例えば?」
「寿司、かまぼこ、梅干し、納豆、漬物・・・」
洋平は、思わず吹き出して、腹を抱えて笑ってしまった
「マジか、ははははは・・・最高」
「他にも、ありがとうございます。さようなら。また、会いましょう。」
「そこは、まともだな」
洋平は、この大柄で厳ついマーチンのピュアな雰囲気が好きになった。きっとずっと一緒に過ごすことになりそうだとこの時思った。
そんなんことを、思い出しながら、いつのまにか寝てしまった。
to be continued
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クライストチャーチ・ハイスクール・ボーイズRFC(1986年)
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