我々にはおなじみの納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)。
その有用菌としての側面は十分に知られており、今ではどこのドラッグストアに行ってもナットウキナーゼ(nattokinase)のサプリメントが陳列されているほどです。
ところがこの納豆菌、実は病原菌としての側面も、わずかながら知られています。
※納豆菌に限らず多くの細菌は、宿主側の要因などにより病原菌として振る舞うことがあります。
話には聞いていましたが、先日偶然、臨床由来の納豆菌菌血症について慎重に評価した文献を見つけましたので、読んでみました。
Open Forum Infect Dis. 2025 Sep 23;12(9):ofaf574.
背景情報として、B. subtilis var. natto の同定の難しさに触れておきます。
「納豆菌」としておなじみの菌ではありますが、遺伝的にはB. subtilis の一変種に過ぎず、B. subtilis var. subtilis との鑑別は通常の細菌検査(培養、MALDIなど)では困難です。
両者を鑑別する分子マーカーとして、bioF 遺伝子の部分欠失とbioW 遺伝子のナンセンス変異が知られています(1)。
ちなみにこの引用文献1は、茨城県の産技研によるものです。
▼グラム染色された納豆。
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まとめると:
- 天理よろづ相談所病院で2016〜2023年の血液培養陽性例を後ろ向きに調べたところ、B. subtilis と同定された70例中69例(99%)が遺伝学的に納豆菌(B. subtilis var. natto)と同定された。うち25例(36%)は真の菌血症と判定され、30日死亡率は16%、緊急の手術・内視鏡治療を要した症例は28%であった。宿主・病態によっては、納豆菌が感染症起因菌となりうることが示された。
もう少し詳しくみていくと:
- 2016~23年の間に血液培養陽性となった4,634サンプルのうち、70例(1.5%)がB. subtilis と同定された。bioF/bioW の配列決定により、そのうち69例はB. subtilis var. natto、1例のみが他のB. subtilis であると判明した。
- 69例のうち、44例(64%)はコンタミネーション、25例(36%)は真の菌血症と判定された。この判定には、感染部位からも同菌が検出されることと等の厳格な基準が用いられた。
- 真の菌血症25例の年齢中央値は79歳、男女比は1.78:1、市中発症は23例、免疫不全患者は5例であった。臨床診断は腹腔内感染13例、肺炎6例、尿路感染5例であり、9例では多菌種の菌血症が見られた。
- 7例では緊急手術または緊急内視鏡処置を要した。
- 30日以内死亡は4例であった。
- 69株のB. subtilis var. natto はいずれも主要な抗菌剤のほぼすべてに対して感受性を示した。
- 発症前の納豆摂取歴は十分に記載されておらず、実際の摂取状況までは評価できなかった。
- 納豆菌にはプロバイオティクスとしての側面が大きいものの、無害視することは適当ではないと考えられる。
個人的な感想:
- これまでにも納豆菌の症例や症例対象研究は多数報告されていたが(2,3,4,5,6)、体系的かつコンタミネーションを厳しく排除した報告はこれが最初ではないだろうか。
- 一方で、条件次第ではどのような菌であっても病原菌として振る舞うのであり、この報告をもって「納豆菌のリスク」を過度に強調するものではない(曝露頻度が高いため相対的にリスクが高いとは言えそうだが)。
- また、論文中で言及されていた通り、この調査では菌血症を起こした納豆菌が納豆由来であるか否かは不明である。環境中のB. subtilis のうちどの程度をB. subtilis var natto が占めているのかについて情報は不足しており、ここで報告された症例がすべて食品由来なのか、それとも環境由来株の感染が含まれるのかについては、今後の疫学的調査が必要なものと思われる。
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いいですよね、納豆。
そのまま食べてもいいですし、料理に使っても、ひと手間加えて酒のアテにしてもグッドです。
豆腐に納豆と醤油などという、グラコロも裸足で逃げ出すような三段活用でも、(多くの日本人にとっては)違和感のない仕上がりになります。
でも冷静に考えると、国内の広い地域でこれだけ一般的に、異臭を伴う発酵食品を食する文化、他にないのではと思うのです。
臭豆腐もホンオ・フェもシュールストレミングも、地域/人によっては食べるという程度かと思いますが、納豆は確実に市民権を得ている感じがしますね。
この機に、納豆についてもう少し勉強してみようかしら。
ところで、近年では海外でも少しづつ消費量が増えていると聞きますが(下表, 財務省貿易統計より作成)、皆さん臭いを我慢して食べているのでしょうか。
それとも順応していらっしゃる?
1) Phylogenetic Analysis of Bacillus subtilis Strains Applicable to Natto (Fermented Soybean) Production (2011)
2) Bacillus subtilis variant natto Bacteremia of Gastrointestinal Origin, Japan (2022)
3) Bacterial Meningitis Caused by Bacillus subtilis var. natto (2022)
4) A case of Bacillus subtilis var. natto bacteremia caused by ingestion of natto during COVID-19 treatment in a maintenance hemodialysis patient with multiple myeloma (2022)
5) Natto intake is a risk factor of Bacillus subtilis bacteremia among children undergoing chemotherapy for childhood cancer: A case-control study (2023) ※有料です。
6) Recurrent Bacillus subtilis Var. Natto Bacteremia and Review of the Literature on Bacillus subtilis: The First Case Report (2024)

