前回はTetragenococcus halophilus のヒスタミン産生にフォーカスした話題だったので、今回は発酵過程のスターターとしての有用性についての報告です。
ざっと見た感じでは、本菌を扱った研究はこの論文と同様、有用菌として登場するものが多いようです。
Tetragenococcus については前回かなり詳しく書いたので、ここでは割愛します。
J Agric Food Chem. 2011 Aug 10;59(15):8401-8. ※有料です。
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まとめると:
- 高塩(25% NaCl)の魚醤モデルにT. halophilus をスターターとして接種すると、アミノ酸組成、香気成分プロファイル等が改善した。ヒスタミン濃度は対照群に比べて有意に減少した。
もう少し詳しくみていくと:
- アンチョビを原材料とした高塩魚醤の発酵モデルにおいて、実験群(4群)に対してそれぞれ異なるT. halophilus をスターターとして接種し、35℃、6か月間の発酵過程における菌数やアミノ酸、香気成分等の動態を調査した。
- サンプル中の乳酸菌数、好塩菌数とも発酵60日頃に大きく減少し、90日以降では検出されなかった。したがってスターターの接種は、発酵初期に魚醤成分へ影響を及ぼすと考えられた。
- 接種群のα-アミノ酸量(タンパク質分解指標)は発酵14日(初回計測日)以降で対照群より高く、6か月時点でも優位となったことから、スターターが加水分解に寄与した可能性が示唆された。
- 総アミノ酸量は株により差があり、一部の株では高い値を示した。また、T. halophilus MS33接種群ではグルタミン酸やチロシン、フェニルアラニン(グルタミン酸による旨味を増強する)が有意に高値となった。
- 生体アミンとしてトリプタミン、プトレシン、カダベリン、ヒスタミン等が検出された。カダベリン濃度は対照群に比べて上昇する接種群、減少する接種群の双方が見られたが、ヒスタミン濃度はいずれの接種群も低下した。※アブストラクトでは"The addition of T. halophilus MRC10-1-3 and T. halophilus MCD10-5-10 resulted in a reduction of histamine (P < 0.05)."と書かれているが、本文では"Histamine contents of four fish sauce samples inoculated with T. halophilus MS33, MRC10-1-3, MCD10-5-10, and MRC10-7-8 were lower than that of the control (P < 0.05)."となっている。Figure 4を見る限りでは P < 0.05 となるのは2群のみのようだ。
- 糞便臭様ノートに関与し得るジメチルジスルフィドが接種群で低下し、不検出となる接種群も見られた。
- 以上のことから、適切なT. halophilus 株をスターターとして使用することで、魚醤の品質向上が期待できる。
個人的な感想:
- T. halophilus の有用菌としての側面が明確に示されていて、発酵食品の尽きることのない可能性が感じられた。微生物オタク、発酵食品オタクとしてはとても喜ばしい話である。
- 特に、アミノ酸増加、ヒスタミン低下、硫黄系臭の低下が同時に狙えることは、とても期待感があると思う。
- 一方で、研究デザインが実際の発酵過程に比べて単純化されすぎていて、この結果を素直に外挿できないと感じた。つまり、接種サンプルであるアンチョビが加熱処理およびタンパク質分解酵素処理を受けていること(発酵を加速させるためとの説明あり)、ガラス容器で発酵させているため工業タンクではしばしば発生するバックスロッピング(前バッチの菌叢の残存)がないことが気がかりである。
- ヒスタミン濃度の増加/減少については前回の結果と相反するように見えるが、これは株特異性、つまり株によるヒスタミン産生能の有無あるいは多寡なのだと理解してよいのだろうか。本稿ではそのあたりの検証はされていない。もし株特異性なら適切なスターター株の選択で回避できる問題だが、仮に細菌叢全体として影響を受けて増加/減少の変化が生じている場合、やはり単純化した実験結果を実製品に直接適用できないという話になりそうである。
- 現状では魚醤製造は自然発酵が基本でスターター添加は一般的ではなさそうだが(1)、その有用性については研究・議論が加速している(2)。個人的には今後が非常に楽しみな研究分野。
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この論文を読んでいて、4, 5年前に購入したナンプラーがまだ半分くらい残っていたことを思い出しました。
僕、普段料理はするほうですが、ナンプラーを使う場面って全然ないですね。
うちは妻がナンプラーもパクチーも嫌いですし。
というわけで、今日はナンプラー消費デイとします。
▼ガパオライスと春雨の副菜(ガパオの余り野菜消費)。
我ながら上出来。
というか美味いものしか入ってない料理は、調味料さえ適切に使えば嫌でも美味くなるのでは。
うちの2歳児も、よく食べてくれました。よしよし。
1) Processing of Fish Source by Natural Fermentation (2012)
2) Fermented Fish Products: Balancing Tradition and Innovation for Improved Quality (2024)
