紅が出て行っても、私の頭をぐるぐるするなんだかわからない振り捨てたいようなどうにもできない感情は消えなかった。
緑子様が、うつむいて人差し指の背をくわえているような師範の肩を、ぽんと叩いた。
すると師範は、もっと背けるようにして体を固くする。
『雲』
緑子様は小さくため息をついて、師範の名を呼んだ。
呼ばれた師範は追い詰められたように喘いで指の背を噛んだ。
『お前の弟子だよ』
緑子様は優しく言う。
師範は思い切るように目を閉じ、開いた瞬間もうそこにはいなかった。
バタン、とドアの閉まる音だけが遅れて聞こえた。
緑子様は私を見て、
『守護と主は命がつながっている。だから、心もつながっているのだよ』
と言った。
『雲のかけたガードで、お前の力があれの心を読むことはない。けれど、あれが強く思ったことは、命を伝ってお前に届くのだよ』
私を膝に乗せているユカリ姉さまが、優しく髪を撫ぜてくれる。
『紅ちゃんのお母様はね、紅ちゃんに男の子でいて欲しかったの。その思いが強すぎて、紅ちゃんはずぅっと男の子みたいに育ってきたんだ。だから、女の子のように見られるのが嫌なんだよ』
そう言われても、よくわからなかった。
確かに、紅は女の子の自分を突きつけられるのがとても嫌だ。
そういうところ、前にも見たことがあるもの。
でも私は女の子として育った女の子だし、どうしてそんな気持ちになってるのかはわからない。
ただこの、自分の胸を占領しているもやもやした苦しい気持ちが、まぎれもなく紅のものなんだと思った。
そしてなんとか解放してあげたかった。
こんな気持ち、苦しすぎる。
『うん、わかんないよね』
ユカリ姉さまはそう言って笑った。
『わたしだって、あの子の気持ちは本当にはわからない』
ユカリ姉さまはもう一度私の髪を撫ぜて、窓の外、海中の深いグリーンを見つめた。