海を渡る風が頬をなでた。
宵闇の青い風が、緑色に光る湖面をゆらして吹き抜ける。
手をつないだままちょっと不安定な蓮の葉の上に出た俺と菫は、まだ青さの残る夜空を見上げて、それから咲宮様の後ろに昇る満月を見た。
不思議な満月・・・夢でも見てるみたいに体がふわふわしてる。
咲宮様は俺たちをにこやかに見ていて、少しうなずいた。
振り返ると、グリーンに淡く光る湖に、浮かぶ睡蓮の花々、大きな葉の上に姉ちゃん達や雲様、菫のご両親がいて、背後には海のほうから連なる、ギリシャ風の神殿のような、厳かに光る城――
『良い夜じゃ・・・昇る月も、常より輝きが増しておるようじゃな・・・』
咲宮様が語りだす。
頭上には大きな満月が、キラキラした光の粉を降らして浮かんでいた。
『ご列席の方たちよ。この小さな宮は今宵、小さな守護を得る・・・そは運命か?また天命か?――この可愛らしい主従は、前例のない未来を共に歩むと幼い胸で決めたのじゃ。われらはこの主従の幸多からんことを祈り、祝福しようではないか』
前例のない・・・こんな子供のうちにまたさらに幼い守護を得ることは、今までにないことなんだな・・・
咲宮様は右手を水平に差し出した。蓮の花が一輪、ふわりとその手のひらに舞い込んだ。
『天に望月――水面に月影・・・とこしえの縁を結ぶ刻・・・天域の雫に姫神の命を与えよう』
俺の方にその純白の大きな睡蓮が差し出される。
両手で受け取る――この花から命水を飲んで、半分飲み込んで、あとは菫に飲ませるんだ。
花びらは固い・・・そっと傾けると薄く緑色に光る命水が口の中に流れ込んでくる。甘い香り・・・ちょっととろりとして蜜のような味がする。思わずごくんと飲み込んでしまう。いけね。
花の中にまだ残る命水を口に含んで、菫の頬を両手ではさむ。
菫は蒼く輝く瞳で俺を見上げる。風に広がる黒銀の髪が湖の光で淡く照らされている。
菫にキスすんのは初めてじゃないのに、すごく緊張してどきどきした。
なんとかくちびるを合わせて命水を流し込む・・・これでいいのかな?
くちびるを離したら、菫は少し涙を浮かべていた。
悲しいわけじゃなくて・・・なんていうか・・・感動かな?
・・・うん、俺もすごく感動してる。
これって、一生にたった一度のことだもんな!
ずっとずっと忘れない、大切なできごとだ。
俺は菫をぎゅっと抱きしめた。