ソラは大学に合格した。
宇宙飛行士への道を専門とする理工学部。
期待と不安のいりまじる春。
ソラは大きな壁に直面した。
それはソラが「凡人」であることを思い知らされる出来事だった。
大学の基礎物理学の授業は、ソラにとって宇宙人との会話のようだった。
しかし、同級生はいとも簡単に理解していく。
昔から宇宙語になじんでいたかのように。
ソラはどれだけあがいても超えられない才能の壁を感じて、暗い気持ちになった。
……僕には、才能がない。宇宙飛行士になんてなれない。
量子力学の実験レポートで「C」評価を受けた時、ソラのプライドはガラガラと音を立てるように崩れてしまった。
夢を笑った父の声を思い出した。
「お前みたいな凡人がなれるわけないだろう」
……父さん、そのとおりかもしれない。
ソラは涙が出てきた。
大学の科学クラブも休みがちになり、誰にも連絡せず、アパートの暗い部屋に引きこもる日々。
……僕の一番の敵は僕だと思っていた。今の僕は僕に負けている。ヒビトの「絶対」は僕の中には無いかもしれない。
外の世界はあい変わらず動いていくのに、ソラの世界は停滞したまま同じところをグルグル回っていた。
ソラの異変をはじめに察したのはカンナだった。
カンナはソラの大学にいる知人と連絡をとり状況を知ると、ショータとミサキにも連絡して、3人でソラのアパートへ押しかけた。
ドアを開けたソラは、無精ひげがボーボーで、生気を失ったような暗い顔をしていた。
「なんで来たんだよ…」
ソラは元気のない声でつぶやいた。
そんなソラを見て、ショータは気持ちを奮い立たせるように強い目をした。
ショータは机の上にあった量子力学のレポートを見ると言った。
「なんだこの難しい問題。まだ、楽しいパズルになってないじゃん」
「ソラ、お前は宇宙飛行士になる。宇宙飛行士の仕事は、難しい数式を完璧に解くことだけか?」
ソラは力なく答えた。
「いや、そうじゃないけど…」
「そうだろ。ムッタもヒビトも『答え』を知っていたんじゃなくて、どうすれば解けるか楽しんで探していたんだ。ソラの量子力学のレポートは、楽しいパズルになってない」
ショータは量子力学の概念をソラが興味を持っていたロケット部品に例えて解説した。
ショータの説明を聞くと、難しい理論が、工夫できる楽しい設計図に変わっていく。
ソラの目に明るい力が戻ってきた。
ミサキは小さなキャンパスを取り出した。
それはソラの「宇宙飛行士になる!」という言葉が書かれた小学生の頃の絵だった。
「ソラくん、これ覚えてる? あの時、わたしたちが誰にも笑わせないと誓った夢を描いた絵だよ」
ミサキは優しく言った。
「わたしたちは、ソラくんに才能があるから応援してるんじゃないの。いつも一生懸命で、目がキラキラしていて、宇宙の話を楽しくするソラくんに勇気をもらってるの。凡人だから努力するのがムッタの強さでしょ」
ソラの胸がじんわりあたたかくなった。
……みんなありがとう
最後にカンナが最新のJAXAの広報資料をソラの目の前に広げた。
「ソラ、宇宙飛行士の今年の募集要項で、最も重視される項目が変わったの知ってる?」
ソラは首をふった。
カンナは資料の一文を指さした。
「『多様なバックグラウンドを持つ者』、そして『予測不可能な事態への適応力と、仲間との協調性』大変な状況でも心を折らないで粘り強く向き合う人が求められてる。今の君のように大学の成績で挫折していたら、宇宙で起きる問題に向き合えるかな?」
カンナはソラの目を見て冷静に言った。
「今の君の状況は、宇宙飛行士の選抜試験のシミュレーションだよ。あきらめそうな自分にどうしたら負けないか? わたしたちも一緒に探してるの」
ソラに少しずつ明るさが戻ってきて、ソラは微笑んだ。
「凡人ということに、こだわりすぎていたね。自分に負けるところだった」
ソラはみんなの顔を見ると言った。
「ありがとう、みんな。僕の夢を笑わないみんながいる。僕は『絶対』を僕の中につくるから」
ソラの目は希望に輝いていた。
みんなで「It's a piece of cake!」と言って、笑った。
ソラの夢は、みんなの夢。
小学生の時に読んだ『宇宙兄弟』にもらった夢は、今も続いている。