昔々、あるところにジカンがいた。
ジカンは好かれたり、嫌われたりした。
楽しいとき、ジカンはみんなに喜ばれた。
退屈なとき、ジカンは嫌われることが多かった。
ジカンは思った。
……僕はいつも僕なのに。どうして、好かれたり、嫌われたりするんだろう。
友達のモクテキに相談した。
モクテキは言った。
「私と協力してみるかい? そうすれば、きっと、みんな楽しくなるだろう」
ジカンとモクテキは協力した。
退屈なとき、みんな目的を意識した。
すると、みんな意欲が湧いてきた。
「この時間はきついけど、この練習が上達のために必要なんだ!」
楽しいとき、みんな目的を意識した。
すると、バラバラのものが1つにまとまるような気がした。
「そうか、これは、みんなつながってる!」
ジカンとモクテキは最高のパートナーだった。
しかし、そこにトウヒがあらわれた。
いつものようにジカンとモクテキが協力しようとした。
そこに逃避という意識があらわれた。
ジカンとモクテキにトウヒが割って入った。
モクテキは遠ざけられた。
みんな目的へ向かうのをやめて、あらぬ方向へそれぞれ進んでいった。
ジカンは自分が役に立てず、すり減っていくのを感じた。
「モクテキを思い出して! トウヒなんか嫌いだ」
トウヒは笑った。
「ジカンは孤立した。俺と仲良くしようぜ」
みんな目的に向かわず逃避した。
時間は過ぎてゆくだけのものになった。
時間はその時によって速さを変える。
時間の流れは、目的に向かうからこそ意味をもち、その役目を果たす。
目的を見失った時間は、立ち止まったままの登山のようなものだった。
ジカンは願っていた。
……みんな、思い出して。モクテキと一緒にいたときの充実感や達成感を。みんななら、トウヒを追い出せるはずだから。
スマホの画面に夢中になっていた女性がふと天井を見上げた。
「こんなこと、いつまでしてても仕方ない。やらなきゃいけないことがあるんだった」
それぞれが昔、感じていた目的を思い出した。
ジカンの声なき声が、胸に一筋の光をきらめかせたから。
みんなの中で時間が動き出した。
立ち止まっていた登山を再開するように。
モクテキが帰ってきた。
「待たせたな。さあ、一緒に行こう」
目的×時間で、ゴールまで行く。
トウヒは慌てふためいた。
「どういうことだ。みんな逃げなくなった」
ジカンは言った。
「みんな思い出したんだよ。生きることはゴールに向かって歩くことだって。立ち止まっていたら、人生はあっという間に終わってしまうんだ」
ジカンはモクテキに言った。
「もう、どこにも行くんじゃないよ」
「ああ、俺達はずっと一緒だ!」
2人は力強く握手した。