ASD(自閉スペクトラム症)のアスは、お菓子工場で働いている。

夢の中の神様とのホットライン。

神様はなんでもお見通しだから、アスは子供が母親に身をゆだねるように素直になる。

アスは、安心して、心が広がっていく。

神様は言った。

「来たものを素直に受け取って、素直に返してください。余計なことは考えなくていいです。それが最短だから」

神様とのお話は、物語のようだ。

言葉の奥に無意識が働いている。

その日は、朝から体調が悪かった。

アスは春が近づくと調子を崩す。

暖かくなったり、寒くなったり、気温の変化に頭がついていかない。

家庭の悩み事も抱えていた。

キャパを超えて、こんがらがる頭。

タイラに注意された時、もう限界だと思った。

「タイラさん、調子悪いんで、帰らせてください」

タイラは、こいつ、帰るのか、という顔をした。

「たしかに、調子悪そうですね。倒れられると困るから、早退してください」

アスは、もう少しやってから帰ることにした。

タイラは言った。

「アスさん、いいですよ、帰ってください。調子悪いのにフラフラやられても困ります」

タイラは、アスの顔をまじまじと見た。

「うん、顔色は悪い」

アスは早退した。

次の日、アスは元気になって、タイラに挨拶した。

元気そうなアスの顔を見て、タイラはパッと笑顔になった。

「タイラさん、昨日はありがとうございました。お陰様で元気になりました」

「そう、良かったですね。でも、俺の経験だと、その元気の良さは、昨日の調子悪さはただの寝不足じゃないですか」

タイラは怪しんだ。

「そんなくらいで帰るんですね。俺ならそれくらいで帰らないですよ」

タイラは心配した分、腹が立ってしまった。

タイラはアスを無視しようと思った。

アスは、タイラが話しかけてくれないので寂しく思った。

アスは、タイラに注意された。

アスは、嬉しくて、ニヤニヤしてしまう。

それを見たタイラは激怒した。

「なんで注意してるのに、ニヤニヤしてるんですか! 舐めてるのか!」

タイラは、会社をクビになってもいいから、アスを殴りたいと思った。

アスは一生懸命、あやまる。

「ニヤニヤして、すみませんでした!」

タイラは言う。

「話しかけられて、嬉しかったんですよね! 今も、ニヤニヤしてるじゃないですか!」

アスは、タイラが怒ってるのか、冗談を言っているのかわからなかったが、とりあえず、一生懸命、あやまった。

タイラは、話しかけてくれなくなった。

いつも2人でロッカーまで歩くのに、タイラは一人でさっさと行ってしまった。

アスは、悲しかった。

これなら叱られたほうがマシだ。

無視が一番つらい。

ロッカーですれ違わないように、アスは、時間をかけて、ゆっくり歩いた。

クリーニングされた制服の中から、自分の制服を選んでいる時、タイラとすれ違った。

アスは見ないようにした。

タイラは、なんだこいつ、と思った。

先入れ先出しとは、古いものから順番に使い、なるべく使用期限を切らせないようにすること。

アスは、基本中の基本の先入れ先出しを間違えてしまった。

タイラはアスに注意する。

「俺はもうアスさんのことキライになりかけてるから。こんなことも言いたくないんだけど、でも、言わないといけないから言うしかない」

アスは神妙な表情で聞いていた。

タイラはアスのマスクをとる。

「ニヤニヤしてるし。口を見なくても目を見たらわかるよ」

タイラが柔らかくなっていた。

アスは言った。

「話しかけられて嬉しいです。昨日は無視されて、ホントにつらかったです」

タイラは、アスに可哀想なことをしたと思った。

トイレ交代に行く時、アスはタイラに言った。

「トイレ交代に行ってきます」

タイラは言った。

「もっと大きな声で!」

「トイレ交代、行ってきます!」

アスはニヤニヤしていた。

「俺のこと、ホントに好きなんだな」

アスは「怒ってない?」と聞いた。

「もう怒ってないよ」とタイラは言った。

仕事が終わり、2人でくだらない話をしながら、ロッカーまで歩いた。

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