ASD(自閉スペクトラム症)のアスは、お菓子工場で働いている。
アスは、生産終了後、ポンプから配管をとって、片付ける作業を習った。
「わかりました?」
タイラに聞かれた時、アスは「はい」と答えた。
しかし、実際にやってみると、やり方が全然、違う。
手順やポイントを間違え、ポンプまわりをチョコだらけにした。
タイラは、がっかりして、注意する。
「こんなやり方を教えましたか? 自己流をやるなら、習った基本がしっかりできるようになってからにしてください」
アスは、自信なさげに言う。
「はい、わかりました。教えられたとおりにやります」
タイラは思う。
……やります、やります、と言って、全然、やらないじゃないか。口だけだ。
「掃除は、誰が、するんですか? 自分でやらないで、人にさせますよね? そういうところですよ」
タイラは、仕事が終わってから、アスが汚したポンプまわりを一生懸命、掃除する。
アスは、無言で掃除してくれるタイラを見て、感謝を言わなくてはと思った。
「タイラさん、ありがとうございます。次から、汚さないように、教えられたように、ちゃんと、しますから」
タイラの胸にアスの心が響いた。
「アスさん、まず、言われたことを言われたようにやってください。話をしっかり聞くんですよ」
響かないように見えるアスにも、少しずつ響いているんだとタイラは思った。
アスは夢の中で神様に会った。
神様はどうにかして、アスを一人前にしようと、伝わらない、理解が遅い、でも、真面目なアスに仕事のコツを試行錯誤して教えようとした。
神様も困っていた。
なんで、こんなに当たり前のことができないんだろう。
神様は言う。
「仕事の流れをイメージしてください」
アスは、神様の気持ちに応えなくてはと思った。
生産終了後の後片付け。
普通の人が25分で終わるところ、アスは、40分かかっていた。
タイラは面白くない。
「アスさんは、ゆっくりやって、人にみんなやらせて。楽でいいですよね」
アスは、叱られながら、早くしようと一生懸命、片付けた。
タイラは、アスの仕事が雑で、あちこちに不備を見つけた。
「急いで適当な仕事をするのは無しですよ。きれいにして、そして、時間を縮めていくんです」
アスは、急げばいいのか、きれいにすればいいのかわからず、パニックになった。
神様の言葉を思い出した。
仕事の流れをイメージする…
生産中、最後の片付けの流れをイメージした。
ここをこうして、次にこうして、その次は……
だんだん、片付けのスピードが速くなり、時間が短縮できてきた。
ついに、みんなと同じように25分でできた。
アスは、喜ぶ。
「タイラさん、25分でできました」
タイラは満足しない。
「時間はいいから、きれいにするようにしてください。きれいに、ですよ」
アスは、元気よく言う。
「はい」
満面の笑顔で。
タイラは、アスが仕事に満足していて危ないと思った。
「すぐ調子に乗るんだから。これくらいじゃ、まだまだですよ」
タイラは思った。
……だんだん、使えるようになってきた。
アスとタイラが2人で並んで歩く姿は、楽しそうで、仲が良さそうに見えるのだった。