ASD(自閉スペクトラム症)のアスは、お菓子工場で働いている。
アスは夢の中で神様に会った。
神様は、不思議な方だ。
なんでも知っていて、迷いなく言葉を選び、心がとろけるような優しさとユーモアがある。
神様は言う。
「相手が伝えたいことを最後までしっかり聞くんですよ」
アスは、人の話を途中から聞いていない。
頭でさえぎって、自分勝手な判断をしている。
神様は、なんでもお見通しなんだ。
夢の中であらわれて、消えていく。
アスは成長したら、神様と現実でも会えるのかな、と思った。
工場での仕事は、ミスばかり。
先輩のタイラは今日も注意する。
「アスさん、掃除が汚いですよ。あれじゃ、菌が出ます。食中毒を起こしたらどうするんですか? 製品回収になったら、責任とれるんですか?」
アスは、話をしっかり聞こうとした。
掃除は責任をもって…汚れが無いかよく確認して…
また、注意される。
「言ったこと、できてないじゃないですか。さっき教えたばかりですよ」
タイラは思う。
……アスはいつも、まわりとの見えない交流を断ち切っている。
……普通は、まわりを感じて、人のことを気にかけながら、空気を共有するのに、アスには、心の中に他人がいない。
……これは何か特性を持っている。
アスがまたミスした。
もう我慢できなくなって、タイラは問い詰めた。
「なんでできないんですか、話をちゃんと聞いてるんですか」
アスは、どうしたらよいかわからず、涙目になった。
「私には障害があるんです。自閉症です。だから、いろんなことがわからないし、うまくできないんです」
カミングアウトした。
アスは、重荷から開放された気がした。
タイラは、微笑む。
「やっぱり、そうだったんですか。前にも同じような人がいたからわかりますよ」
タイラは思った。
……よく打ち明けてくれた。勇気がいっただろう。
「なんで、もっとはやく言ってくれなかったんですか? アスさんは、ここの一員ですよ。そういうことは、早めに言ってもらったほうが助かります」
アスは、タイラが伝えることをしっかり聞いていた。
すると、言葉だけでなく、心も伝わってきた。
タイラの優しさ、怒りだと思っていたのは、悲しみでもあったこと。
タイラは、怒ってばかりで怖いと思った。
でも、それは、アスに仕事をしっかりして欲しい願いであること。
言葉の裏に隠されたタイラの心。
しっかり聞くことで、アスに伝わってきた。
タイラは、しょうがないな、という顔をして言った。
「できないことも多いと思うけど、できることはしてください。できないなら、できない。そう言ってくださいね」
アスは、張り切って答えた。
「やります。頑張ります」
アスは、感謝を伝えようと思った。
「ご指導、ありがとうございます」
タイラは、意外に思った。
「なんかいつもと違う。新入社員みたいだ」
アスは笑顔になる。
「え? 新入社員みたいって何? どんな感じ?」
タイラは面倒くさそうに言う。
「うるさいな、もう、このおっさん」
気持ちが通じあう、柔らかい空気が流れた。