シリウスから地球に転生したスナオは、エジプトに生まれた。
トートに特別待遇されているスナオは、同僚から目の敵にされていた。
ある日、スナオが食事をしていると、急に胸が苦しくなり倒れた。
医務室に運ばれると、トートが駆けつけてきた。
トートは、スナオの様子を見ると、顔をしかめる。
……これは強い呪いだ。私でも治せない。
スナオは、何も食べられなくなり、弱っていった。
トートはスナオを励ます。
「病気に負けない強い気持ちをもつんだ。心は奇跡を起こすから」
スナオは、息が苦しそうにうなづいた。
トートは、いくつか魔法をかけてみたがスナオを治癒できなかった。
死が確定され、スナオに迫るのを見た。
トートは寝ているスナオの手をつないだ。
「私の心がわかるか? 少し見せてあげよう」
スナオの脳内に映像が浮かんだ。
太陽は空を金色に照らし、鳥が光を漕ぐように羽ばたいていた。ナイル川はゆるやかに流れ、金色の小麦が一面に輝いていた。
そこにトートがいて、あたたかい光がスナオの胸に届いた。
スナオは胸から広がる喜びが、魂まで癒やされるのを感じた。
トートはスナオに優しく言った。
「心は、胸で感じるものだ。頭には文字しか無い。言葉にならない心を言葉にならないまま感じるんだ」
スナオは、心がわかった気がした。
「もう少し、はやく、あなたと出会いたかったです」
スナオは苦しそうにトートに言った。
「遅すぎることは無い。わかることは、変化だから。その変化は、やがて君を変える。しかし、今回はもう…」
スナオは死んだ。
スナオは最期に「ありがとう」とトートに言った。
トートは、スナオの心臓を計り、名簿にスナオの名前を記入した。
死者を悼み、魂が天に昇るまでトートはずっと見ていた。
完