大学を中退してほどなく、統合失調症になり、入院した。
退院してから、精神科デイケアへ通った。
そこでスタッフをしていたQ子さんのことを好きになる。
笑顔が素敵な人だった。
頭が良くて、冗談ばかり言っていた。
退院後の暗い気持ちが、どれだけ救われたかわからない。
散歩のとき、いつも並んで話しをした。
週末は、本をたくさん読み、その内容をQ子さんに話すと、興味深く聞いてくれた。
好きだったが、働いていないし、付き合うことはできないと思った。
そして、どこか噛み合わないところがあるような気がした。
私は利用者で、Q子さんはスタッフで、仕事で接しているだけで、そこには越えられない壁があるのを感じていた。
頭で拒否し、心で求めていた。
ダメだろう、うまくいかないだろう、でも、望みが捨てきれないのは、Q子さんが私のことを好きかもしれないという感覚があったからだ。
アルバイトをはじめるようになり、それでも、デイケアには通っていた。
「好きな女の人でもできた?」と利用者に聞かれたとき、「います」と答えた。「うちの母親」と冗談を言った。
Q子さんの表情が、一瞬、こわばってから、笑顔になったように感じた。
「働いている様子が知りたいから、週に一度くらい電話して」とQ子さんに頼まれた。
木曜日の昼、毎週、デイケアに電話した。
他愛のないことを話した。
あるとき、意を決して、Q子さんの電話番号を聞いた。
それはできない、と言われ。「何か連絡があるなら……」「実は、話したいことがあって…」以下、適当なことを話した。
フラレたと思った。
Q子さんが、退職することになった。
寿退社ではなかった。
海を眺めたり、川の流れをいつまでも見ていた。
恋が終わった。
それから、私は正社員になり、妻と出会って、翌年、結婚した。