舞台フォークロアと地域文化は同じではない
これはBamboutiだけの問題ではありません。
エジプトの「フォークロアダンス」を外国人が学ぶ場合、多くの場合、
地域文化
→ 調査・採集
→ カイロで舞台化
→ 国立・有名舞踊団のレパートリー
→ 有名講師
→ 海外フェスティバル
→ 外国人ダンサー
という何段階ものフィルターを通ります。
その過程で振付が整理され、衣装が統一され、舞台映えする動きが追加されます。
当然、名称や語源についての説明も「教えやすいストーリー」に整理されることがあります。
だから、舞台フォークロアの先生の説明と、その土地の歴史そのものは分けて考える必要があります。
Bamboutiの場合、この違いが「Manbouti」という名称に表れているのではないか、と私は考えています。
むしろ「bumboat説」の方が説明しなければならないことが少ない
語源説を比較すると非常にシンプルです。
Man Boat説
まず、
「なぜMan Boatという英語なのか?」
を説明しなければなりません。
さらに、
「なぜアラビア語ではمではなくبで始まるبمبوطيなのか?」
も説明する必要があります。
さらに、
「なぜ19世紀のPort Saidで実際にbumboat / bumboatmanという英語が使われていたのか?」
という偶然も説明しなければなりません。
そして、
「なぜbumboatの意味がBamboutiの職業内容と完全に一致するのか?」
という偶然もあります。
Bumboat説
一方こちらなら、
英語にbumboatという小舟が実在した。
↓
19世紀のPort Saidで実際にbumboat / bumboatmanという言葉が使われていた。
↓
その小舟を使って外国船相手に商売する人々がいた。
↓
その人々がبمبوطيと呼ばれるようになった。
↓
その港湾文化を表現する踊りがالبمبوطيةと呼ばれるようになった。
これだけです。
非常に自然につながります。
私が現在「バンブーティ」と呼んでいる理由
以上の理由から、私はこの踊りを外国人向けに広まった「マンブーティ」ではなく、バンブーティ(Bambouti) と呼んでいます。
理由は単に「私はこの呼び方が好きだから」ではありません。
第一に、エジプトで実際に使われているアラビア語表記がالبمبوطي / البمبوطيةだから。
第二に、Port Saidの資料でもBambouti / Bambutiyyaという名称が確認できるから。
第三に、英語のbumboatという実在する海事用語が、意味・音・場所・時代のすべてで一致するから。
第四に、1875年という非常に早い時期からPort Saidでbumboatmanという語の使用を確認できるから。
そして第五に、Man Boat説には英語としても歴史的にも説明しなければならない点が多すぎるからです。
「エジプト人の壮大な聞き違い」ではなかったのかもしれない
私は以前、
「もしかして外国人船員が『Bumboat!』と言っていたのをエジプト人が聞き取り、その後誰かが『Man Boat』と聞き違えた、エジプト人の壮大な勘違いなのでは?」
と半分冗談のように考えていました。
でも今回、古い資料まで調べてみて、少し考えが変わりました。
もしかすると最初のPort Saidの人々は別に間違えていなかったのかもしれません。
外国人船員が使う bumboat という言葉を聞き、
それをエジプト・アラビア語の音に取り込み、
بمبوطي
という言葉を作った。
ここまでは極めて自然です。
ところが100年以上経過して、bumboatという古い英語を知る人が少なくなった。
後世の人が、
「بمبوطيって何から来たんだ?」
と考えた。
「英語らしい」
「boatが入っているらしい」
「船で働く男だからMan Boatじゃない?」
となった。
そして、その説明がカイロの舞踊教育の中に入り、有名なフォークロア講師を通じて海外へ伝わった。
その結果、外国人ダンサーの世界では逆に Manbouti の方が「専門的な名称」のように見えるようになった――。
もしそうだとすれば、とても面白い現象です。
Port Saidの港で生まれた言葉が、Cairoで舞台芸術になり、海外へ輸出される過程で、その語源まで作り替えられてしまった可能性があるからです。
結論――Bamboutiの語源はbumboatと考えるのが最も自然ではないか
もちろん、語源を完全に確定するには、まだ調査すべきことがあります。
特に重要なのは、19世紀から20世紀初頭のアラビア語資料におけるبمبوطيの最古の用例です。
英語側については、少なくとも1875年のPort Saidですでにbumboatmanが確認できます。
次に、
「アラビア語のبمبوطيがいつ初めて文字資料に登場するのか」
を突き止められれば、
bumboat → بمبوطي
という借用が起きた時期をかなり狭められるかもしれません。
したがって現段階では、「絶対にこれが唯一の正しい語源」と断定するより、
歴史資料・意味・発音・現地表記を総合すると、Bamboutiは英語の “bumboat” に由来すると考える説には非常に強い根拠があり、“Man Boat” 説よりも整合性が高い
とするのが適切だと思います。
そして私はこれからも、この踊りを
Manboutiではなく、Bambouti/バンブーティ
と呼びたいと思います。
なぜならこれは単なるカタカナ表記の好みではなく、
Port Saidという港町が、外国船と出会う中で生み出した言葉と文化の歴史そのもの
だと思うからです。







