※ネタバレあり。

 

【素朴なテーマ】

 
本作は疲れ切った大人を描く。
 
『アベンジャーズ』のように力強い信念があるわけではない。さりとて、『ザ・ボーイズ』ほどに露悪的なわけでもない。あるいはスパイダーマンのような若者としての未熟さを描くわけではない。
 
二元論的ではないグレーゾーン。何もできないほどに落ち込みきっているわけではないが、夢を見れるほど前向きではない。人生に打ちのめされた後、惰性で日々をやり過ごす日々。
 
このような題材をヒーロー映画で扱うのは意外だが、効果的でもある。「ヒーローだって辛い、大人だって辛い。」そのような弱みを見せられると、不思議と我々に寄り添われたように感じる。
 
辛気臭い、しかし、それ故に親しみが生まれる。それこそが本作の本質だ。
 
【多彩な演出】
 
テーマ性は良し。では、それを描く手法はどうだろう。
 
サンダーボルツの面々は皆疲れ切った顔をしている。メイク、演技の双方から、彼らの不安定さが表現される。アクションまでもそのような演出のテーマが継続する。
 
エレーナは倒れるように敵に掴みかかり、投げやりな様子で敵を打ちつける。表情や動きに覇気はないが、身のこなし一つで多勢を圧倒する。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』以降、無駄のない洗練されたアクションがMCUの持ち味となった感があるが、本作は実戦的なアクションの系譜を引き継ぎつつ、「気だるげな動作」と「アクションの余白」を織り交ぜて、ヒーロー達の傷ついた心理までも反映する。既に完成されたかに思えたMCUアクションの新境地を本作は開拓する。
 
心情が反映される会話劇も見どころだ。エレーナ、エイヴァ、ジョン、皆心理的に限界だからこそ、建前や遠慮なしに言いたいことを言い合う。しかし、それが転じて「自己開示」となり、思いもしないところで、彼ら自身が救われていく。
 
お互いがお互いを裏切ると考えながら、ギリギリの所で繋がる奇縁。
 
言葉での表現が難しい「グレーゾーンの心情」が様々な手法でスクリーン上に表現される。
 
【キャラクターの背景】
 
サンダーボルツを構成する者達はそれぞれに抱えた想いがある。家族の喪失に傷つくエレーナとアレクセイ。実験体として逃亡者として、誰も信じられなかったエイヴァ。スキャンダルからの失墜を引きずるジョン。多様な背景を持つキャラクター配置は興味深い。
 
彼らと比較すると相対的にバッキーが頼もしく思える。同じキャラクターでも異なる角度から違った印象を掘り下げるのはMCUの強み。もっとも、前半の慣れない政治に戸惑うバッキーは、やはり心配にさせられる。そう言えば、スティーブもサムも無しでヒーロー活動を行うのは、バッキーとしては初?「初めてのおつかい」を見守る気分にさせられる。(そして、エレーナは親同伴の「授業参観」といったところか)
 
そして、作品全体を貫く象徴的な構成も見事だ。サンダーボルツの物語は、冒頭の郊外のうち棄てられた倉庫から始まる。そこから荒野を進み、徐々に仲間を増やし、都会の中心たるニューヨーク、かつての「アベンジャーズ・タワー」へたどり着き、セントリーの暴走と対峙して人々を守る。
 
荒野から都心へ。「社会から隔離された」サンダーボルツが徐々に「社会復帰」し、社会や人々に受け入れられるまでの過程が「ロードムービー」的な彼らの歩む道筋にも象徴されている。
 
繊細な心理描写。心情を織り込む技巧に満ちたアクション。象徴性を帯びるロードムービー的な構成。素朴な題材を高度に構成する、職人技のような完成度の高い一作。
 
終盤、ボブの記憶をたどる中で、ボブの父親を倒すのが、自らの家庭の不和を招いたジョンであったり、自分を見失い暴走する過去のボブを、同じく暴走の過去があるバッキーであったりと細かいこだわりも映える。

そして最後の最後、ポストクレジットだが有名になっても庶民感の抜けないアレクセイに癒された!グッズ展開がそんなに嬉しかったのか、アレクセイ・・・!
 
【「チームもの」として】
 
ただ、期待していた「チームもの」としては疑問もある。本作、スポットの当たるキャラとそうでないキャラの差が激しい。エレーナ、アレクセイ、ジョンは効果的に描かれる。そしてバッキーは今回、心理にスポットが当たる描写は少なめだが、「心の傷と向き合った」経験を活かし、他のメンバーを鼓舞する場面は成長を感じられて良かった。

一方、エイヴァは基本的に「少しやさぐれているけど、話の分かる良い人」の域を出ない描写だ。魅力的ではあるがインパクトに欠ける。もっと「彼女だから言えること、できること」の描写があれば良かったが。タスクマスターに至っては冒頭で出番が終わるし・・・

「チームもの」というよりは、エレーナを主役として、彼女を取り巻く人間模様を描くドラマと見るほうが良いかも知れない。エレーナ視点で見れば、タスクマスターの犠牲の意味合いも重みを持つはずだ。
 
【「ユニバースもの」として】
 
あと本作。近年のMCUでは一番「ユニバースもの」としての面が強い。関連作を上げると『アントマン&ワスプ』『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』『ブラックウィドウ』『ホークアイ』『キャプテン・アメリカ/ブレイブ・ニュー・ワールド』等。更にはラストバトルが「アベンジャーズタワー跡地」。
 
「単体では良作も多いが関連性に欠ける」というのが私の「エンドゲーム以降のMCU」に対する所感だったためその点を払拭してくれたのも良かった。
 
そう考えると上述の作品群は「次世代アベンジャーズ軸」の作品群と定義できるし、一方『ロキ』『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』『ドクターストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』『アントマン&ワスプ/クアントマニア』『デッドプール&ウルヴァリン』等は「マルチバース軸」とひとまとめにできる。ふりかえると近年のMCUにも相応の意図があるのかも知れない。