※ネタバレあり。
【複雑なビジュアルとシンプルな脚本】
ファンタスティック4を見た。
豪華絢爛なビジュアルと、とても素直、あるいはひねりのない脚本で成立する作品だ。
しかし、これも一つの正解だと思う。60年代風のレトロフューチャーを志向するビジュアルのインパクトは絶大だ。服装、建造物、乗り物、家具に至るまで細部まで作り込まれた世界観が映画の世界へ力強く引き込んでくる。とても主張の強い劇伴も、マンガ的なビジュアルにしっかりマッチし独自の世界観を盛り上げる。同じくビジュアルで魅せた『ワンダヴィジョン』のマット・シャックマン監督の強みはしっかりと生かされている。
(正直、世代的に60年代風レトロフューチャーというものはさっぱり分からないのだが、私のような人間でも、巧妙な創り込みとデザインの一貫性の説得力から、良質なファンタジー世界として楽しめた。「昭和」が分からない自分ながら『ALWAYS 三丁目の夕日シリーズ』をファンタジーとして需要出来た子供時代の感覚を想起した。)
その点を考慮すれば、余りにシンプルすぎる脚本にも納得がいく。
【レトロでシンプルな「希望」】
物語の大筋はリードとスーの子供のフランクリンを巡るギャラクタスとの争奪戦だが、一人の子供と惑星の全生命のどちらを優先するかという命題は表層的な描写に終わる。スーによる説得を受け、すんなりトーンダウンしてしまう市民、矢継ぎ早にリードの「惑星の転送」によるギャラクタスからの逃亡という対案が示され、「世界を救うか、一人の子供を救うか」というドラマの核心部分は肩透かし的に過ぎ去り、シンプルなギャラクタスとの戦いに収斂。この点がドラマを、葛藤を描き切れていないと賛否を生む。
しかし、元来、ヒーロー映画というものはそういうものなのかもしれない。『ダークナイト』に代表される近年のヒーロー映画群が「人命救助」にまつわるジレンマにリアリティある視点から議論を深めてきた背景を考慮すれば、本作の葛藤は物足りなく見える。
それでも、本作がヒーローの葛藤ではなく、希望を提示する点に焦点を当てる作風と解釈すれば、本作のある種、お気楽な作風も腑に落ちる。「宇宙開発」への人々の熱狂など、60年代はまだ未来やテクノロジーに希望が持てた時代。その時代性をビジュアルにとどまらず、脚本にまで反映するのが本作の作風なのだろう。
混迷の現代において、複雑なテーマと向き合うヒーロー映画も良いが、本作のように発明と確信に夢を見て「より良い明日に向け」一致団結するというある種、牧歌的な価値観もまた、現実に癒しを与えてくれるという点で重要だ。
レトロ感と現代的な硬派なドラマを両立した『スーパーマン』(2025)が同時期に公開され、比較されてしまうのは辛い所だ。しかし、本作ならではのレトロ感とレトロでシンプルな希望溢れるドラマの両立にも独自の味がある。
【複雑な現代にシンプルな視点を】
作品の見やすさで言えば、本作は随一だろう。複雑なビジュアルに圧倒されるが、ドラマはフランクリンという子供を中心に据え、ファンタスティック4の家族のドラマとギャラクタスの脅威の二軸ドラマが整理されて描かれる。複雑な映像美にシンプルな脚本は見やすい。複雑な映像美に複雑な脚本を重ねてしまえば、それこそ『ブレード・ランナー』や『2001年宇宙の旅』のように評価されるまで時間のかかる難解作となってしまう。その観点から言えば、本作のシンプルな脚本にも、必然性がある。
欲を言うなら、フランクリンと地球生命の双方を救うことで団結した市民とファンタスティック4の協力の「惑星転送装置」の開発の描写を深堀して欲しかった。市民とファンタスティック4の協力による、希望を信じ技術革新で困難を乗り越える作戦での「宇宙開発」全盛の60年代的な希望の価値観を重点的に描写できれば、ドラマ面においても突き抜けることができるはずだったのだが。
そして、アクション映画として見ると本作、なかなかに難しい。リード、スー、ジョニー、ベンの四人の能力は描写されつつも最適減のものであり、アクションとしての面白みは薄い。ギャラクタスも前半から存在感を主張する焦らしの演出は徹底されるが、いざ地上に降臨すると、舐めプなのかゆったりした動きでファンタスティック4のスケールに合わせた戦闘を展開する。
見やすくはあっても緊張感を微塵も感じさせないラストバトルは中々に厳しい。リードの作ったブラックホールの落とし穴いあっさり放り込まれてしまうのも拍子抜けの感がある。本作にアクション映画的な期待を向けては厳しい評価に終わるだろう。レトロフューチャー的な美術やファッションに向ける期待には十分に応えてはくれるのだが。
また、キャラクターの描写としては、フランクリンの親となるリードとスー、シルバーサーファーの説得に赴くジョニーの描写は十分だったが、ややベンの影が薄いのは気になった。ベンについては4人の中で特に市民との距離感が近いという個性もあり、それぞれキャラクターの描き分けはできているのだが。
天才発明家という、ともすれば近寄りがたい設定になりかねないリードも、子育てに戸惑うという弱みを一貫して描き、親しみやすさと成長の描写を両立しているのもポイントだ。
MCU的に見ると本作のリードと『アイアンマンシリーズ』のトニーは天才発明家という共通項がある。他者との距離感を掴みかねてしまうリードと、良くも悪くも他者に踏み込みすぎるトニーといった形でキャラクターの書き分けはしっかりとなされている。キャラクターそれぞれの描写が確立されているからこそ、後に控える『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』(2026)への参加が楽しみである。
総合すると、キャラ描写、美術デザイン、音楽、編集のテンポは良し。一方、アクション描写や緩急あるドラマの盛り上げという点では難がある。長所と短所のハッキリした作品と言える。
特に近年、映画マーケティングの都合上、公開前の段階から多くの情報が予告などで観客に伝わり、話題性が評価される現状では、「予想を覆す脚本」に期待が集中し、本作のような「美術や衣装にこだわる、堅実な世界観の構築」という長所は評価されにくいのかも知れない。
しかし、アクションや物語の盛り上がりはともかくとして、予告で示される60年代レトロフューチャー的な世界観に惹かれたなら、その期待にはしっかりと応えてくれるはずだし、60年代風味のシンプルでレトロな理想はまっすぐに響く。
善悪の境界を極限まで突き詰めた『ダークナイト三部作』。マイノリティの受難をコミックの世界に展開した『X-MENシリーズ』。救命における組織と個人の関係値問う『キャプテン・アメリカシリーズ』。近年、ヒーロー映画というジャンルに対し挑戦的な作品が多く制作されてきた中、本作は独自のスタイルを確立する。
混迷の時代の渦中で、本作のように素直に、正面からレトロな希望を謳うヒーローを描いた作品の意義は「揺るぎなき一歩」だ。




