「ジュラシック・ワールド/炎の帝国」(2018)
※ネタバレあり
【伝説的シリーズの、異色作】

もはや盤石の恐竜パニック映画の金字塔、ジュラシックパークシリーズ。
辣腕のSF作家マイケル・クライトンのベストセラー小説を、巨匠スティーブン・スピルバーグが映画化した第一作は、大ヒット、恐竜のイメージを全世界に知らしめ、また、実写と特殊効果の成功例として映画史に刻まれることとなりました。
「大昔の琥珀の中の蚊の体内に残存していたDNAから恐竜を再生させる。」説得力ある原作の設定を導入として、そこから展開されるスピルバーグの恐怖演出。そして当時の最新技術を結集して再現される恐竜のリアリティあふれる姿。
第一作の大ヒットを受け、間にリブートを挟みつつも、これまでに計6作品が制作され、今夏には更なる新作の公開も控えています。
さて、そんなパニック映画の金字塔シリーズですが、その中に1作、独自の視点からシリーズを再定義した「異色作」が存在します。通算5作目、リブートシリーズにおいてはジュラシックワールド2作目「ジュラシック・ワールド/炎の帝国」のご紹介です。
【タイムリミット・サスペンス】

本作は前作「ジュラシック・ワールド」(2015)の3年後から始まります。恐竜の脱獄により大規模な被害をもたらし、閉鎖されたジュラシック・ワールド。その跡地のある島の火山活動が活発化しているという情報がもたらされます。
このまま放置すれば、跡地に残された恐竜たちが絶滅してしまう。政府は火山噴火前の恐竜の保護を決定し、そのためのリーダーとして前作の主人公、元恐竜監視員のオーウェンを招集します。政府への不信感を抱くオーウェンですが、ここで協力しなければ、かつて自分が愛情を注いできたラプトルたちを見捨てることとなる。最終的に招集に応じたオーウェンは部隊を率い、悲劇の地、ジュラシック・ワールド跡地を再訪します。
ジュラシック・ワールド跡地において、対恐竜のパニックアクションが演出される。シチュエーションとしてはシリーズのお約束を踏襲する格好ですが、本作は、そんなパニック映画要素に火山噴火という「タイムリミット」を上乗せします。
目の前の恐竜の脅威、オーウェンを出し抜き恐竜を奪取しようとする政府の思惑、迫る火山噴火のタイムリミット。多様な要素で構成されるサスペンスはシリーズ最高クラスのスリルを演出します。
【同じ目線に立つということ】

ただ、何といっても本作最大の見どころは、シリーズに「新しい視点」を持ち込んだことにあります。
恐竜の保護を主張するオーウェン一派。
恐竜の利用を目論む政府や科学者達。
シリーズ伝統の対立構造です。
ただ、オーウェン一派の主張は善意から来るものですが、あくまで人間の立場からの主張です。彼らは確かに恐竜の味方ですが。一方的に生命を弄ばれた恐竜たちと同じ立場に立つことは叶いません。
しかし、本作においてただ一人、恐竜と同じ立場に立てる人物がいます。今回の恐竜救出計画の立案者、ベンジャミンの孫娘、メイジーです。彼女は、実はクローン技術で生み出された人口の生命であると、後半で明らかになります。身勝手な科学に振り回されたという点で、彼女は恐竜たちと同じ立場です。
クライマックスにて、社会秩序という大義のために始末されそうになる恐竜たちの処遇を巡り、オーウェンと科学者たち、人間達が激しい議論を行う中、メイジーはただ、シンプルな行動で自らの意見を表明します。
メイジーは恐竜を開放するスイッチを押します。
【君と、同じ目線】
そして、恐竜たちは人間社会に解き放たれ、様々なリスクを持つ、制御不能な「ジュラシック・ワールド」が世界へ顕現します。
メイジーの行いは、社会通念上は、悪行です。しかし、それは人間の立場から見た場合。人間社会は一度でも、メイジーや恐竜たち、身勝手な科学の被害者の声に耳を傾けたことがあったでしょうか。
メイジーの行いは、ある意味で、シリーズ通して人間に振り回されてきた恐竜たちの立場を代弁するもののようです。
シリーズにおいて最も衝撃的な本作の結末は、「科学への警鐘」というシリーズの根幹たる魂を、更に鮮烈な演出で再生させました。新シリーズファンも、オリジナルシリーズファンも必見の異色作にして傑作と言えるでしょう。
