その男は海岸を歩いていた。
名前をTと言う。
夏には海水浴客で賑わう砂浜も、盆を過ぎると夏の喧騒は砂に染み込み、
波の音だけが変わらずに、誰もいない静寂を、心地よくかき消していた。
波の音に混じり、男の声が聞こえてくる。
目を細めて先を見ると、3つ,4つの人影が見える。
どうも遊んでいるような雰囲気ではない。
Tは歩調を速めて声の主の元へ向かった。
完全に彼らの様子を視界に捕らえることが出来る距離にさしかかり、Tは駆け出した。
女が男3人に取り囲まれ、殴る蹴るの暴行を受けていたのだ。
「お前たち、何をしている!」
Tは可能な限りドスを効かせた声で叫んだ。
「うるせぇよ、てめぇに関係ねぇだろうが!」
男連中の一人がTを上回るドスの効いた声を返してきた。
しかし、こけ脅しにひるむTではない。
おもむろに携帯電話を取り出し、ボタンを3回押す。
「あ、警察ですか、女性が暴行されています。場所は・・・」
「てめぇ、覚えてろよっ!」
男たちは駆け足で去っていった。
「てめぇ」と言うのが自分に対してではなく、暴行されていた女に対してのものであることを祈りながら、
「大丈夫?」
最も自分が格好良く見える角度から、
すなわち顔がよく見えないように女から逆光の位置に立ち、Tは女性に手を差し伸べた。
「あ、ありがとうございます」
Tを見上げた女の頬は赤らんでいた。
「おいおい、勘違いしないでくれよ。俺は下心でオマエさんを助けた訳じゃないぜ。
こんなことで惚れられても困るんだよ。」
とTは言おうとしたが、女の頬が赤いのは殴られたアザだったことに気がつき、言うのをやめた。
疲れたので続く